第百二話 もつれる
モルパは、いや会議室にいる者の大半は議題が高等法院の再興と思っていた。
ところがこんな聞いてもいない議題に代わっているとはどう言う事だ?
どよめきと混乱が会議室中に広がった。
「どう言う事だ!!」
モルパがテュルゴーに怒号を浴びせた。
高等法院の再興は彼が音頭を取り議題に乗せたのだった。
それがこんな三部会などと言う言葉が飛び出すとは思ってもみなかった。
不穏な空気を読む事も無くテュルゴーが言葉を続ける。
「まず高等法院の再開を議題にかける意見が少なからずあった事をお伝えします。その一方で高等法院が貴族のみの集まりである事に偏りがあると言う意見も有りました。一般の国民の声も聞くべきであると。三部会を再開する事により偏りを和らげると言う意見でした。三部会と高等法院をまとめて再開の為の議題とするのはどうかとの事です」
「そんな意見誰が言ったのだ……」
呻くモルパだがその言葉は大勢の貴族達のどよめきに埋もれてしまった。
「と言う事で忌憚なきご意見をお願いします」
テュルゴーの冷静な言葉に対し発言する者はすぐには出てこなかった。
用意していた意見が使えなくなっていたからだ。
言えるとすれば文句しかないだろう。
「おかしいぞ、三部会の復活など聞かされていない! ましてや高等法院とまとめて扱うとはおかしいだろう!」
「そうだ!」
貴族の中から声を上げる者が何人も現れその声が合わさった。
(やっぱりこうなるか……)
テュルゴーは予想通りの反応に少しばかり気を重くした。
高等法院の再開は彼には不都合なものだった。
その実態の闇深さは潔癖なテュルゴーには相容れない。
とは言え自分に進行役以上の役割を持てるのだろうか。
彼女に任せて良いのだろうか?
「それでは皆さん、私からも一言」
マリーが立ち上がった。
皆の視線がマリーに集中する。
懸念に満ちた目で。
「え〜、さっきの速読術習いたい方いますか〜?」
「…………」
全員無言絶句。
というかこのタイミングでそんな事聞くか?
「いないなら……私から言いたいことは皆様に於いては民の声をもっとお聞き願いたいと考えております。昨今小麦を始めとする農作物の収穫が不足気味です。これは何年か続いての事でありその為飢える民も毎年の様に出ております。だから私は三部会という物に興味を持ちました」
(こいつか〜!!)
やはり三部会はマリーの仕業だったのか。
モルパは合点がいくと同時に腹わた煮え繰り返りそうになった。
こんな手で来るとは。
「高等法院は貴族あるいは軍族のみの組織です。これでは単に貴族勢力の発言力が強くなるのみです」
その為の高等法院だろうが。
しかも高等法院の貴族軍属の中には王族は含まれているとは言えない。
先々代王が築いた絶対王政は代替わりと共に次第に衰えている。
だから王族の力をも超える力を高等法院は持てるはずだ。
復活させればその通り貴族勢力が王族をも牛じれるのだ。
とは言え……
ここでモルパは逡巡する。
そんな事口に出して言える訳ない。
王の御前なのだ。
(言い方を考えねば……)
と思っている間にもマリーの言葉は続く。
「この国は貴族や王族以外にも平民がいます。ひっくるめて国民です。国民の声を聞いてこその国家です。ならば民の意見に耳を傾ける場を!」
マリーは一旦言葉を切った。
この機を逃さずモルパが立った。
「王妃様、高等法院と三部会を一緒にして議論するなど常軌を逸しております! 完全に別物です! ましてや三部会の復活など唐突過ぎます。今復活させる必然性はないでしょう」
「ほう、貴方はそういう御意見ですか」
「いや、そうでなく多くの者もそう思っておりますでしょう!」
「私は貴族も民も意見を言える場が必要と考えるだけです。ならば三部会でしょう。高等法院の復活も叫ばれているなら両方議題に乗せれば良いと思います。関連性はあると考えます」
「無理があり過ぎます! そんな考え王妃様しかしておられないです!」
「私以外いない……?」
疑問形。
(あ……)
モルパの顔が一気に青ざめていく。
もしあらかじめ王妃が同意する者を何人か抱え込んでおいたとしたなら……
「国王様。どうでしょうか?」
ああ!!
「まあ王妃の意見、良いと思うよ」
やっぱり〜!!
モルパは頭を抱え込んだ。
(のほほんと言いやがって〜!!)
こうして会議はもつれにもつれる方向に堕ちていくのだった。
と言う訳で高等法院を史実通り復活させるのをマリーが邪魔してます。
敵は史実? なんて時もあります。
果たしてどこまでかき回せるのか。