第百一話 未確認技能
「読みました」
ええ〜!?
何言っているんだ?
今のは本を読んでいたと言うのか?
「ありがとうございます」
言いながらマリーは本をモルパに手渡そうとした。
モルパは本を避ける様に身を後ずさりさせた。
「な、何を……おっしゃってるの??」
言葉使いまでおかしくなるモルパにマリーは顔色ひとつ変えずに一言述べた。
「想像していたより経済について書かれている分量が少ないですね」
「!!」
モルパが目を剥く。
その通りだった。
この本は実は著名な本ではなくマリーの様な経済初心者が絶対読んでない物を選んでおいたのだ。
書いてある経済の分量で選んだのではなかった。
こんなマイナー本を事前に読んでる訳が無い。
と言う事は…………
「むしろ作者の半生に重点を置かれた本でしたね。それはそれで凄絶でしたが……」
(それも当たってる〜!!)
モルパは寒気を感じて身震いを引き起こしていた。
「それと作者の失恋話は蛇足としか言えませんけど、それでも胸が痛くなりました」
(そ、そんなとこまでは知らなかった〜!)
実はモルパは本を読んでない。
自分の意に添う本を経済に明るい者に選んでもらって大体の内容を聞いただけだ。
とにかく王妃は本の内容を分かっているらしい。
「こ、こ、これは……どうして……こんな事が?」
「え? ああ、あれですか。速読術ですわ」
「??」
聞いた事ない言葉が出てきた。
だが聞き返す勇気すらない。
「訓練を積み重ね、文章を読む速さを極限まで高める技術です。訓練次第で誰でもできますよ。私も五年がかりで身に付けました」
最早マリーの言葉しか室内では聞こえてこない。
誰も無言で身じろぎすらしない。
数俊の間の後やっとモルパが声を漏らした。
「そ、そんな事が……できる訳が」
「できます!」
「……」
「何ならやり方をお教えしましょうか? ただ若い成長期の者が習得するのに最適です。個人差はあれど」
「い、いえその……」
「あら、そろそろ会議の時間ですね」
マリーは本をモルパに持たせると夫と手をつなぎ自分の席へと歩いて行った。
モルパはただただ見送りながら微かに言葉を漏らした。
「あれは…………魔女か?」
席に付いた王は恐る恐る妻に尋ねた。
「さっきのあれ……本当に」
「ああ、確かめたいですか。ならあなたもやってみますか? 一年もあれば効果が現れます。そうすれば確かめられますわ」
「あ、いや……」
「もちろんご自由にお決め下さい」
「……もう時間だ」
「はい、会議が始まりますね」
国王にマリーは優しく微笑んだ。
「ええ〜、それでは会議を始めます……」
議長であり国務大臣のテュルゴーが声を上げた。
彼もマリーの速読を見ていたのでやや緊張していた。
会議室の空気もぎこちなかった。
「まず財務会議設立について。今まで無かった財務会議を立ち上げ運営する事にします。更に財務総監に国務会議の参加資格を持たせます。ご異論はございませんか?」
財務総監の職のフットワークを軽くするための物だった。
誰も異論を挟む程の議題でもないし、国務会議に参加資格の無い財務総監のテレーが今、席に付いてる位だから問題ないだろう。
「国王様?」
「ああそれで良いだろう」
「はっ御意に」
最初に軽めの議題をあっさり終えた所で……
「次に……」
次は確か……
「三部会の再開について会議をいたします」
何〜〜!!
マリーが速読術を使いました。
初期に設定しておいて中々使えなかったネタでした。
衆人の前で披露する展開にしたくて強引に出しました。
チート、ではないよね?