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3005年5月1日




3005年5月1日。


サウロンサウルスは、アールズマスに現れた。

この頃には、人々もこの()見えざる恐竜に慣れている。


「街の郊外にサウロンサウルスが出た。

 羊と羊飼いを食ってる!」


「ああ、この辺にもようやく出たのか。」


人口1000人に満たない小さな海沿いの街の人々は、溜め息をつく。

活気のない老人ばかりの街は、怖がるのも億劫だ。


街の老人たちは、いつもの場所で座ったまま動かない。

60を超えた青年団の成員だけがノソノソと走り回っている。

大声で叫ばないと誰も聞こえない。


「恐竜が出た!!」


「えーっ!?」


「恐竜が!!」


「はあ!?」


「恐竜!!」


「ああ?」


こんな街を救いに来てくれる者は、何処にもいない。

誰もが深く気にもせず、思っていたより少し早い人生最期の日を迎えようとしていた。


そんな街に一人の青年が姿を見せる。

風で靡く上着の袖が左肩から下にあるべき左腕がないことを暗示していた。


彼はこの半年間、盗まれたアヴド・エル・アトバラナの古文書『死者の掟』を探していた。

賊が欲しがったのは、表紙のダイヤモンドだ。


「………神々は怒り、王の頭をますます重くする。」


青年は、『死者の掟』の一節を唱え始めた。

注意深く古いページを指で抑え、サウロンサウルスに向けて呪詛を飛ばす。


「果てしない宇宙の回帰に介在する原型は………。

 ………他では持ち合わせたことのない意味を孕んでいた。」


やがて空が突然、燃え上がった。

勿論、見える者には、サウロンサウルスが火に包まれたのが分かる。


「………訴えが虚しい物になれば、汝は冥界の門を潜り、帰還を悪鬼が待つであろう!!」


青年が呪文を唱え終えた時、サウロンサウルスは、崩れ落ちた。

恐らく地球上でただ一つの超巨大恐竜の骨格は、灰となって散った。


そこに歓声も驚きもなかった。

ただ老人たちが地面を睨み付け、聞こえていないふりを続けているだけだった。




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