足曾木婆ーsid宮崎—9
突如私たちの前に現れたのは車椅子を押す不気味な老婆だった。
老婆は一見どこにでもいるような優しそうな人物であり、車椅子に乗っている女性はまるで全身を隠すように真っ黒な喪服でベールのついた黒い帽子をかぶっているため顔や身体的特徴がほとんどわからない。
「同じだ」
コンビニのごみ箱の鍵、消えた死体、車いすを押す老婆と顔の隠れた喪服の女。
あの噂好きが言っていた状況と同じだ。
「同じね・・・」
「みゃーちゃんもあの噂知ってるの?」
あの噂、もしかしてここら辺では結構知れ渡っているものなのだろうか? そう思ったが。
「噂? 何それ」
どうやら知らないようだ。なら何が同じなんだろうか。
「さっきゴミ箱の中に入っていたあれよ」
そう言われたが、いまいちピンとこなかった。
というのも私が中を見たのは一瞬で、分かったのはせいぜい二人分あったことくらいだ。
「そう、無理もないわ。あの中にあったのは老婆と20代くらいの片足のない女性だったの」
片足がない?
そう言われて喪服の足元をよく見てみると確かに片足が無いことが分かった。
「多分あれは怨霊よ」
「怨霊?」
そう言ってみゃーちゃんの口から怨霊について語られる。
怨霊とは生前に何らかの恨みや、大きな負の心残りがある生物が悪魔など頂上的な存在の力によってこちら側に居ついたものである。
彼、または彼女は初めは復讐のために動くが、いずれは目的を忘れ、他の人間を自分と同じ目に合わせたり、目に入った者すべてが復習相手に見えるように歪められてしまう。
そのため、災いになる前に払ってしまう必要があるらしい。
私が驚いたのは彼女から電波な発言が出たことだったけど、そういえば彼女もオカルト研究部に入るようなそっち系の人だったことを思い出す。
「アシハイランカネ」
問いに答えない私たちにしびれを切らしたのか老婆は再びこちらに問いかけてくる。
でも、要ると答えても要らないと答えてもどちらにしろ私たちは死んでしまう。
そうだ、噂ならネットで調べれば解決方法が見つかるかもしれない。
そう思ってスマホを取り出すが、圏外になっていてつながらなかった。
「うそ・・・」
解決方法が見つからない。でも、あの老婆もあきらめる気がまったく無いようで、こっちを眺めてにやにやと笑っていた。いったいどうすれば・・・。
「要るに決まってるわ」
「っちょ!」
みゃーちゃんははっきりと要らないと宣言してしまう。噂通りだとこのまま・・・。
「ソンジャア、コレヲ――」
そう老婆が何かを取り出そうとする前に破裂音が響き、後ろに倒れる。
みゃーちゃんの手にはいつの間にか煙を吹く銃が握られていた。
怨霊の説明はあってる。
でも、相手は怪異だから間違ってる。