足曾木婆ーsid早川ー5
もうちょっとすらすら話をかけるようになりたい
さて、鍵が開いた(こわした)わけなのだが・・・。ええい、ここまで来てためらっても仕方がない。
思い切るために一度自分の頬を叩くと蓋へと手をかける。
「宮崎さん。準備はいい?」
「結子」
「はい?」
ない言ってんだこいつ? そう思ったのは許してほしい。 なぜ今になって自分の名前を?
「結子、下の名前で呼んでキョウちゃん」
それは今いう事なのだろうか? というか、そんなに仲良くなったつもりはなかったんだけれど、ちょっとなれなれしくない?
まぁ、ここで突き放してぎすぎすするのもあれか・・・
「あーはいはい。結子ね」
「なんか投げやり過ぎない?」
「だって今いう事じゃないでしょ?」
「いや、キョウちゃんって普段学校でさ、四方山以外とは全くしゃべろうともしないし、近づくなって感じのオーラ出してるじゃない?」
え、そんな風に見えてるの? 確かに家庭の関係上他の人とはなるべくかかわらないようにしたほうがいいからなるべく避けてはきたけど、そんな威嚇してないわよ?
「でも、しゃべってみるとすごくいい人でさ、それにかっこいいから友達になれないかなって・・・」
それは・・・うん、ちょっと照れ臭いな。いい人とかかっこいいとか言われたことなかったし。
でも、これだけはしっかりと言っておきたい。
「キョウ じゃなくって みやこ って呼んで」
「え、でもキョウちゃんのほうがかわいくない?」
その呼び方には少し嫌な思い出があるからあまり呼ばれたくない。
「みやこ ね?」
「うん、みゃーちゃん」
「名前変わってるじゃない・・・」
いつの間にか緊張やしょうもない葛藤がどこか消えてしまいだいぶ楽になった。もしかすると和ませるためにこんなことを言ってくれたのかもしれない。この子、根は結構いい子なのかもね。
緊張のほぐれた私は、再びゴミ箱へと手をかける。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。そう思って少し隙間を開けた瞬間・・・
「う・・・」
ひどい悪臭とともに小さな虫の群れが飛び出し思わず手を引っ込め鼻をふさぐ。
「きゃぁぁぁあ!!」
突然虫が飛び出したことにより、宮崎さんが突然悲鳴を上げる。
「単なる虫よ?」
「虫でもいや!」
そう言って自分についていないか確かめるように全身をはたく。
まぁ、とんでもない田舎にでも住んでいない限り虫に慣れている人は少ないから無理もないか。
しかし、今の匂い生ごみの匂いにしてはあまりにもひどかった。
あんな匂いになるには何日も腐敗物を放置でもしない限りああはならない。
一体いつからごみ捨てをサボっていたのだろうか?
・・・いや、もしかして何か開けられない理由があった?例えば何かを隠しているとか。
「・・・」
片手で鼻をふさぐと、弾くようにゴミ箱のふたを開ける。
そこで目に映ったのはゴミ袋の上に置かれる肉の塊だった。