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ナカナカシンラツ

顔の半分がぶれているように見えたのはすべて蛾のような虫の擬態であった。


いや、あれは擬態と言っていいのだろうか?

どちらかというとほぼ透明になっているというか、光学迷彩のように表面に映像を映し出している?

ともあれ普通の蛾ではないことは確かだ。新手の怪異にしてはあまりにも堂々としすぎな気もする。


よく見ると右手や太ももなど露出している左半身部分すべてに群がっているようで、かなり不気味だ。

しかしそんな光景にもかかわらず、本人どころか周りの誰も気が付いていない様子。

対面で話を聞かされている翔君でさえ、昨日と変わらない苦笑を浮かべるほどだ。

多分自分以外にはあれがまったく見えていない。

ただ、時折蛾が覆っている部分を搔いているところを見ると違和感だけは感じているようではある。


うへぇ、食欲失せたな。

裏の池のベンチで居眠りしてた時、蝶や蜘蛛が頭に載っていたことはあるけれどあそこまで群がられたことはさすがにない。

あそこまで群がられるなんて変なフェロモン剤でも被ったのだろうか?

いや、単純にあの金髪の少女の仕業って線もあるな。


『ふふふ・・・』


・・・あ、はい正解ですか。

ただ、今回に関しては別に助ける必要もないか。

トイレの件は人形の部品持ってかれたせいで場所吐き出させるために必要だったけれどまったく関係ないしね。

人形に関しても今回は先輩に預けているから特に取られる心配もないし、放置しておいても・・・。


そう思ったその時だ、鹿島さんが翔君の顔に触れた。それも虫に群がられている方の腕だ。

それだけならよかった。 彼だってよっぽどいやだったら彼女の事を拒絶するだろうから、俺が口を出す話でもない。

あまりにしつこいようなら昨日のように連れ出すけど。


でも、彼女が翔君に触れた途端群がっていた蛾達が移りだそうとしたのだ。

それを見た次の瞬間には体が勝手に動き彼女の腕を掴んでいた。


「悪い虫がいるみたいだね」


「ちょ、なnひっ!?」


邪魔するなと言わんばかりに振り向いたが、俺の姿を見た瞬間顔色がみるみると青くなる。

というのも彼女が振り返ったときに蛾の一部が飛び去り、髪に一羽だけ止まったからだ。

へぇ、離れたら他の人に見えるようになるんだ。

鬱陶しいので自分についた蛾を払う。どうもこいつらは肌に悪いみたいだからね。


「いやぁ、別に翔君に話す事も触れることも別にいいんだけどね? そんな汚い手で触らないでほしいな?」


「き、汚いってあんた失礼ね!」


「・・・こんな手でも?」


「え?」


蛾達が飛び去った片手を見た瞬間彼女の顔色はさらに悪くなっていく。

先ほどまで蛾がとまっていた素肌がひどく斑点のような模様やみみずばれのように腫れあがっているからだ。



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