シヤクショ⑩ ―side宮崎―
わからない人は「銀河鉄道の夜に」のアニメでも見て
バス停まで戻ると例の運転手がタバコを吸いながらベンチに座っていた。
「よお、待ってたぜ」
「ずっと停留してるけど仕事ないの?」
「いや、あるぜ。嬢ちゃんたちを送り返す大切な仕事がな」
「それ、サボる口実じゃない?」
「・・・」
うわ、無言で目反らした。
仕事ちゃんとしないと首になるんじゃないかな。
みゃーちゃんはバスに乗ろうとするがひとりでに扉が閉まり乗車を拒否される。
「おっと運賃は先払いで頼むぞ」
「必要なの?」
「行きに言ったはずだが?」
そういえばバスの乗車方法について質問に答えてくれていた気がする。
確か整理券をとって帰りに代金箱に料金表通りの金額を入れるんだっけ?
・・・必要だと入ってないな。でも支払いシステムがあるから結局必要なわけで。あれ、でも行きの運賃結局払ってないような・・・。
「ああ、行きの分は基本タダだ。死人には口と足だけじゃなくって金もないからな」
「おじさん詰まんないってよく言われない?」
「・・・」
また黙った。
でもそれはそう。
いくらお金を持っていても天国にお金なんて持っていけるわけないし、そもそも通貨同じなのって話だし。
でも、それじゃあ整理券とった意味ないんじゃ。
「そいつは単に帰りの行き先を知るために取ってもらっただけさ」
整理券を取り出して見てみるが、やはり意味不明な文字なのかもわからない謎の記号が書かれているだけ。これがこっちの言語なのだろうか?
「でも、結局意味ないんじゃ」
「大ありだとも。さすがに君らが乗ってきた駅覚えてないからね」
「それくらい覚えておきなさいよ」
「ほぉ? うっかり別の駅で降ろしてもいいのかね? 毎日20人くらい乗せてるからどうしても覚えられなくてね。うっかり『きさらぎ駅』とか『南煎駅』とか『ごりらぎ駅』とか悲惨な場所も回るものでね」
これは警告なのか挑発に対しての仕返しなのか。
大人げなさすぎない?
「いやぁ、昔間違えて子供を『天の川前駅』で置いて行ってしまってね。その友人はちゃんと送り届けたんだけれど、彼現実世界で船火災で川に飛び込んでしまったきり行方不明になってしまったんだよ」
そう言って少し遠い目をして煙草を吹かす運転手。
どうやら過去の失敗の対策として整理券をとらしているのね。
それは悪いことを言った。
「ねぇ、その友人の名前カンパネルラだったりしないわよね?」
「さぁ? 名前までは知らないねぇ」
「じゃぁ、その子の名前ジョバンニだったりしない?」
「さぁ?」
「あんた顔そらしてるんじゃないわよ! あと宮沢賢治に謝れ!」
「どういうこと?」
さっきから何か聞いたことのあるような名前が出てきたり、何かを隠そうと知らん顔してる運転手がいるが何のことかわからない。
「こいつ小説の子と適当に語ってただけ。失敗話なんて内容嘘っぱちよ」
「ええ・・・」
いい話だと思ったのにこの運転手は結局何なのよ。




