シヤクショ④ ―side宮崎―
あやふやだった記憶をたどって何とか出した名前が間違いだったようで運転手が訂正する。
「アーサーコナンドイルという医者が書いた大人気ミステリーさ。外国にいる友人からスト〇ンドマガジンを借りてよく読んだものさ」
そう、運転手は懐かしそうに語るが勝手に会話に混ざろうとするのは少し空気が読めないんっじゃないだろうか。
「ちなみに原作ではバスは出てこなかったと記憶しているが、もしかして名探偵ポアロとかと間違ってないかい?」
いや、どっちでもいい。
そんな知識人じみた話をしたいわけじゃなく、もっと気軽に話せるようなそんな雑談が私はしたい。
「それにしても、ボンネットバスを知っているだなんて、眼鏡の嬢ちゃんは中々渋いものを知ってるじゃないの。もしかして岩手にでも観光に行ったのかい?」
何故岩手?
そう思って調べてみるといまだに岩手では動いているらしい。
「違うわ。知り合いに趣味で持っている人がいるの。何度か送迎で載せてもらったわ」
個人でバスを持って乗り回してるってどんなお金持ち?
それに古い車だったら乗り心地とか走る距離とか短くて不便そう。
「はーそりゃあいい趣味してるね。いつかこのバスに乗せて話してみたいものだ。この町に住んでるのかい?」
「いいえ、遠いところよ」
「それは残念。休みの一つでも取れればあってみたいものだ」
そう言って残念そうにする。
「それで、死役所なんかに何の用だい?」
何故かドンピシャで行き先を言い当てられて少し驚く。
どうしてそれを?
そう思っているとみゃーちゃんが肘で呼びかけバスの前方を指す。
そこには電光掲示板に死役所という文字とその横に0の数字が書かれていた。
「これ、直通みたいよ?」
「そりゃそうさ。このバスは送迎バス。お客さんを途中で乗せることはあっても行き先は一つだけ。昔はいっぱいいた仲間も今じゃ地域で一人ずつ。人を運ぶ乗り物としての認識が変わって効率よく複数乗せられるからと船乗りから運転手に転職さ。舟をこいでいたころが懐かしいよ」
懐かしそうにそういうが、心底どうでもいい。
そう思っているが、みゃーちゃんは運転手に対して警戒心を強める。
「目的なんてどうでもいいでしょ」
「それもそうだが、生きた人間が向こうにいこうだなんて話になればいろいろと注意する必要があってね。あ、そろそろ電波届かなくなるから携帯は切っておくことをお勧めするよ」
どういう事だろうか?
電波がつながらないところはいくらだってある。それでもスマホの基本機能は使えるから電源は切る必要はないはず。
そう思ったとたんだ。
突然真っ黒だった夜空が赤く染まった。




