アイシテ
しばらく頭を撫でていると落ち着いたのかメアリーが離れ、人形の部品を拾ってくる。
自分で拾おうとしたのだが、まだなにかに警戒しているのかメアリーに止められたのだ。
くらくてよく分かっていなかったが、人形の胸部の部品だった。
髪の毛と目がない頭部を見てまさかとは思っていたが、かなりバラバラに部品が分けられているようで。
今回メアリーが場所を知っていたから良かったもののこれ、本当に1週間、残り3日で探しきれるのか?
いや、それよりもだ。
ふと疑問がよぎりメアリーの事を見る。
メリーさんを体現した夢、動く人形、現れたタイミング、部品のありか、公衆電話から聞こえた声、やっぱりこの子は・・・。
「メアリー、君ってもしかして・・・」
いや、やめておこう。
何でもないと軽く笑って見せると「どう言うこと?」とでも言いたげに首をかしげる。
疑わしい部分が多いが、憶測で言うには行動に矛盾がありすぎる。
そんなことを考えているとメアリーが袖を引いてくる。
何か期待するような眼差しに見えるのは気のせいだろうか。
えっと、もしかしてお礼を期待している?
「部品探してくれてありがとな」
そう言って頭をなでようとすると首を振って否定する。
じゃあ何を? と、おもっていると両腕を広げた。ああ、そういうことか。
彼女が求めるように背中に腕を回し抱きしめてやる。しばらくすると少し離れる。これもちがう?
「うおっと?」
考えるよりも先に勢いよく飛び付いてきた。
ここでちょとだけ体格差の話をしようと思う。
実は俺とメアリーの体格にはほとんど差がない。以前説明したかもしれないが、メアリーは等身大人形、それも女子高生を基準にした話だ。
・・・ちびで悪かったな。女子平均ギリギリ越えてるくらいだから他の男子と頭半分以上差があるんだよ。
閑話休題
まあ、そんな体格差だから不意打ちで受け止めきることができず、そのまま地面に押し倒される。
受け止めきれないのが分かっていたのか、さり気無く頭庇われたんですけど。そんなに頼りないかな・・・
何をしてくるのかと思いなすがままになっていると、ゆっくりと顔を近づけてくる。俺もそれにこたえるように目をつむると固い感触が唇に触れる。
特に体から力が抜ける感覚もなく痛みなどもなく、精神的にも異常がない。純粋なキスだったようだ。相手が人形なのになんか照れる。
「いいよ、もっとしよ?」
覆い被さったままのメアリーの頬を撫でた。
そして、また顔が近づいていき・・・
「うぉっほん!」
わざとらしい咳払いが聞こえ中断された。
なんだなんだと声のしたほうに目を向けるとジャージを着たゴリラが立っていた。
「マッチョ先生・・・」
そう、オカルト研究部顧問のマッチョ先生こと松町先生だ。
「あー・・・どこから見てました?」
「抱きしめあうところらへんからだ」
いや、そこから見てたのなら押し倒されたところで止めればよかったのに。
そう思いながら起き上がるとメアリーはピッタリと左腕に抱きついてきた。
「で、何で先生はここに?」
「夜の見回りだ。最近物騒な事件が多いからな。特にここら辺で神隠し事件が起こっているらしい」
そう聞いて公衆電話に目が行く。あの張り紙ってそう言うことか。まぁ、犯人は神様じゃなくって怪異だけど。
「まぁ、青春するのはいいが時間を考えろ。時間も遅いぞ」
そういわれ時間を確認してみると1時を過ぎていた。明日寝坊は確定だな。
短編のほうは・・・昼間でいいか。丁度ネタも手に入ったことだし。
「ほら、警察にお世話になるのも面倒だろ、送ってやる」
そう言って道路のほうに止まる4人乗りの小さい車を指す。どうやら車で送ってくれるらしい。
俺は、先生の心遣いに感謝しつつ車に乗り込むのだった。
車に乗っている間、メアリーは俺の左腕に抱き着いたままうれしそうに擦りついてくるのだった。
「まったく、人前でいちゃつくのは勘弁してくれ」
ほほえましい物を見る顔をしていたのがバックミラー越しに見えたのは蛇足である。