ウマクイカナイモノネ
さて、無事人形の部品を回収しついでに彼女の救出も完了した訳なのだが、当然外はもう日が暮れてしまい面会時間も過ぎて追い出されてしまった。
リアにはまだ聞きたいことがたくさんあったけれど別に今すぐ聞かなければならないことじゃ無いし、この騒動が終わったら都合を聞いて聞きにでも行こう。
そういえば先輩たちの方は無事解決したのだろうか?
あの人の運の良さを考えると何事もなく手に入りがっかりしてそうな気もするけれど、後で連絡を入れておこう。
「四方山さん、このあとお茶でもしないかい?」
「おい」
そう昭和のナンパの様な台詞を口にする生徒会長。その側頭部に圭吾先輩の手刀が入ろうとするが、あっさりと防がれる。
「生徒会長が夜遊びに誘ってどうする」
「程々の悪さは青春のスパイスになるんだ。将来もっと遊んでたらよかったと思っても遅いよ?」
「せめて、私服の時にしてください」
そう、俺たちは学校終わりに直接病院に来たせいで全員制服のままだ。校則上寄り道禁止かと言われると特にそんな校則はない。
とはいえ学校に殆どの物を持ち込むのも持ち出すのも禁止されているので、財布以外何も無い状態なのでせいぜい買い食いをする程度である。
けど、校則が許しても世間の目は別だ。
自分たちの頃は許されなかったことを見ると直ぐに学校側にどなりつけ評判を下げに来る。
この前なんてコンビニでトイレを借りた生徒がいて「寄り道してるぞ!」と学校に報告された上に学校の行きしなに寄り道するような不良生徒というレッテルを貼られた生徒がいた。
学校や生徒の評判はルールを守ってもマナーで簡単に悪くなるのだ。
「おいおい、俺の評価なんて今更じゃないか」
今更って、文武両道、学年首席でコネとかなしに生徒会長を務めている、そんな彼がいったいどんな評価を受けているのだろうか。
あまりそういった噂をおっていないからよく分からない。
「生徒会長は優しいくていい先輩ですよ?」
入学当初からなんの見返りもなく良くしてもらってるし。まあ、下心はあるかもだけど。
「ほんと、君はいい子だな!」
「わ!」
そう言って不意に抱きしめて頭を撫でてくる生徒会長。
優しいとかそういうのは言われ慣れてるのに何故か俺のときだけいつもの愛想笑いじゃなくなる。
というか、いつもよりスキンシップが激しい気が・・・。
「よしよし、先輩が何でも奢ってあげるよ」
「いいの? じゃあ月華のケーキで!」
月華というのはあのオネェな店長のいる行きつけの喫茶店だ。
あそこならちょうど電話も借りられるだろう。
「それじゃあ行こうか。よっと」
「おおう?」
生徒会長にお姫様抱っこをされ、そのまま車の方に運ばれていく。
それに「全く・・・」と言いながら付いてくる圭吾先輩はなんやかんや言って付き合いがいいと思う。
・・・
・・
・
sideリア
いつもなら病院内の夜回りをしている時間、病室で人間の少女の手を握っていた。
先ほどまで捕まえ損ねた男の話をしていた人間は今ではすやすやと寝息を立てている。
こうやってカンジャの手を眠るまで握っていることや話を聞いていることはかなり多い。
集団で行動するものの習性みたいなもので孤独でいると不安になることが多く、コミュニケーションをとっていないと不安になるものだ。
偉そうに語っているが私もその一人。人間に姿を変え、言葉を学び(いまだうまくしゃべれないが)コミュニケーションをとる。どこにいるかもわからない同胞の代わりとしてのなれ合いかもしれないが、寂しいとは今更思わない。
最近不思議な人間に出会った。
私の言葉を理解し本当の姿を見ても全く驚かない神の加護を受けた人間、ユウタ。
彼が病院に来るたびに話しかけるようにしているが、私を友人のように接してくれる。それも力をもって慢心し私を下に見てあのような態度をとっているわけでもなく、同じ人間と話すように悪意も敵意もなくだ。
ユウタのような人間に会えたのはきっと奇跡でもう同じことは起こらないだろう。
眠ったカンジャの手を離すと表情を確認する。
たまに手を離すとうなされ始める人間もいるが・・・うん、安らかに眠っている。
患者の手を握っていたのは、ひどく怯え錯乱状態になっていたから。
基本地下に向かった人間が目を覚ますと「幸せな夢を見ていた気がする」と揃えて口にするが、彼女が再び目を覚ますと悲鳴を上げた。
初めは私の元の姿を見たことによるパニックだと思っていたが、「人形が! 金髪の少女が!」とまったく別のものにおびえていた。
落ち着かせた後聞いてみると突然人形の腕につかまれ鏡の中に引き込まれていったのだという。
確かに、カンジャは足を怪我し部屋を移動できない状態だった。それなのに地下にいたのはあまりにもおかしいし、この部屋に残る怪異の匂いにも納得がいく。
思えば今日は怪異の気配を多く感じる一日だった。
まず入院してきた二人。
どちらもプールでおぼれかけたと聞いていたが、まだ夏季には遠く近づくことなんてほとんどないはずだ。
片方からは匂わなかったが、もう片方からは強い怪異の匂いがした。
怪異は生きた生物が成るのは理論上不可能。なのに人間の匂いと怪異の匂い、その両方が強くしているのは乗っ取るようなそんな特性でも持っているのだろう。
その引率した教師はまた別の怪異の匂いを体につけていた。
ただあれは、たまに色々な匂いをつけているのでそういう何でも屋のような祓い屋でもやっているみたいだし気にする必要はないかな?
そして、最後にユウタ。
彼にははっきりと怪異にマーキングされていることが分かった。それも複数だ。
その匂いの一部はこの部屋に残っているが彼が何かやらかしたというよりも、気に入られすぎて勝手に行動を起こした、そんな雰囲気だろう。
実際のところ怪異がいたからと言って私は祓い屋でも怪異家でもないのでどうしたという話なんだけれど。ここまで複数の怪異が現れるのは異常なことだ。
どう見てもユウタがこの町に引っ越してきたタイミングで起こっているので関係してそうだが、彼はもしかして黒-『それを解決するために送られてきた救世主』とかだったり?
わからない。
もし本当にそうだとしたらこれから大ごとが起こることは確実。
私にどうこうできる話ではないが、念のため病院の結界や境界などの検査をしておこう。
今更な話 -『』は誤字じゃないです




