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シカイ⑥

あのあと、上半身泣き別れしたあいつの体は霧のような靄に包まれると元の状態に戻っていた。

死なない程度に体が元に戻されるのではなく看板に激突したときの怪我までしっかりと完治しているところをみるとかなり良心的だとは思う。


コンビニで二つに分けられるアイスを買い、駅改札口近くのベンチに穂くんと二人で腰掛ける。あの少女は空気を読んでかどこかに行ってしまった。


さて、何を話したものか。とりあえずは


「久しぶり穂くん。卒業式・・・いや、冬以来かな?」


彼は目を反らしてしまう。

別に皮肉で言ったわけじゃないんだけどね。

彼とは小学校以来の幼馴染で友人だった。中学の最後の冬までは仲が良かったそう自分は思っていたが、ちょっとしたミスで嘘がバレてしまい彼だけではなく親友だと思っていた全員が離れていってしまった。


「さっきは助けてくれてありがとう」


「ああ、当然のことをしただけだ。なんせ親ゆ・・・幼馴染のピンチだからな」


親友だとまだ、そう思っていてほしいのか。彼からそう言葉がでそうになる。きっと俺はまだ後悔していてほしい、何か理由があって離れていったのだと信じたい。


「裕太、泣いているのか?」


そう言われて自分の頬に涙が伝っていることに気がついた。


「ああ、駆けつけてくれたのが嬉しくって」


そう言いながら涙を拭っていると「嘘だ」と否定されてしまう。


「やっぱり無理だ。俺はいや、俺達はあの日のことずっと公開してた。ずっと謝りたかった!お前のことが・・・」


そう何かを言ったはずなのに電車の音が言葉をかき消す。

多分俺が欲しい言葉は決まっている。でも、紛い物のこの場所では気持ちのいい言葉にしか聞こえない。


ダッテコレカラハアイヲカンジラレナイ


一瞬眼の前を車が通り過ぎると同時に光が自分たちを包み込む。

そして、隣の席にいた筈の穂君の姿は無く、アイスの片割れだけが地面に落ちていた。


・・・

・・


溶けかけのアイスを齧りながら電灯の少ない畑道を一人歩く。

いつも通りこの道は静かで虫の泣く声だけが鳴り響く。

先程の襲撃も無かったようにベッドタウンの方の明かりが灯り寂しさだけが増している。

少しここに期待をしていたが、虚しさだけが残っている。

試しに指を弾いて見るが景色は変わらないまま。

ゲームの主人公のように心が強ければきっとここから簡単に抜け出せたのだろうか。


そんな事を考えていると加えていたアイスをひったくられる。

誰かと思うとあの金髪の少女がこちらを煽るようにアイスを見せつけてくる。


「やったなー!」


このあと二人で追いかけっこになる。途中本気を出さなかったけど捕まえた頃にはアイスが半分の大きさになっていた。


・・・

・・


家に戻るとメアリーが迎えてくれる。

夕食はすっかりと冷めてしまっていたため、温め直してもらうと金髪の少女と二人で食べる。

リアからもらったおすそ分けはかなり美味しかった。


その後は宿題を終わらせ就寝準備を終わらせ布団に入る。

当たり前のように両脇に二人が潜り込んでちょっとだけハーレム気分を味わう。


さて、この夢は一体いつ覚めるのだろうか。

ここは多分死階の中のはずで、今まで見ていたのはすべて夢。

そのせいか全員から好意的に見える筈なのに愛を感じないせいか気持ち悪さしか無かった。

ただ、右腕に抱きついてスリついてきているこの少女だけ別なのが気になるけど。


リアが人間に見えたのも、あのエレベーターで見かけたあの姿であってほしい、そんな願望が見せたすがた。

異能力者だって早く自分を見つけてほしいという願望。

穂くんはあの頃の事を忘れられず今も引きずっているせいだ。


ただ、この夢世界を体験することでやっと自分の願いを自覚することができた。

もうあんな思いしたくないからと高校に入ってから変わろうとしたけれどやっぱり無理だ。

不本意だったけれどその地盤ができてしまっていることだし活かしていこう。


あとは、この夢世界から抜け出すだけ。

ここまで否定しておきながら抜けられないのは何らかの脱出条件があるのか。それともまだ後ろ髪を引っ張られているせいか。

とりあえず今日はここまでにしよう。そう思って目を瞑った。

目を瞑ったのだけれど・・・


唇に柔らかい感触が押し付けられ目を開けると風紀委員長の顔が目の前にあった。



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