ハジマリ
気が付くと電話ボックスの中にいた。
ここはどこかと周りを見回すが、外は暗く月明りすら見えない。
最後の記憶をたどっても疲れ果てて眠ったことしか思い出せない。
いや、確実にこれ夢だろ。夢にしてはあまりにも頭がさえた感じになっているのが不思議だ。
突然公衆電話から発信音が鳴り始めた。
本来公衆電話に電話がかかってくることはないが、夢だからそういうこともあるだろう。そう思って受話器を取ると男性の声が聞こえてきた。
「やあ、おめでとう。君は生贄に選ばれました! クソッタレ・・・」
「えぇ・・・」
突拍子もないことを言われ一瞬フリーズする。いや、この流れは普通「あなたは特別な存在に選ばれました」とかハッピーな感じでハプニングに巻き込まれるパターンだろ、なんで悪態つかれてるんだ?
「ああ、すまん。クソみたいな企画の悪役やるように言われて最悪な気分なんだ。まぁ、一応仕事だからいろいろと説明する」
そういわれて始まったのは、異能力を使って行われるゲームの話だった。途中何度も悪態と他人の愚痴が挟まれたので要約すると。
1:これは別世界の新しい神を決める儀式である
2:二つの陣営に分かれて戦わせ、全滅したほうの負け
3:参加者は現在神をやっている者たちが独断で決める
4:参加者はそれぞれが潜在的に眠る異能の力に目覚める
「え、これだけ? 期間は?」
「そんなのはない。どうせ80年程度で勝手に死ぬだろ」
「いや、まぁ確かに人間の寿命は尽きるだろうけどそんな勝敗のつき方でいいの?」
「道楽じゃないんだぞ、別にその光景をコーラとポップコーン持って観戦するわけでもないんだし面白くなくってもいいんだ」
「じゃあ、異能力を目覚めさせる意味は?」
「ナイフ持って殺し合いより派手で面白いじゃん?」
おい、ひとつ前の言葉と完全に矛盾してるぞ。
「異能の守秘義務とかは?」
「ない。遺伝するかもしれないが、それはそれで新しい世界の秩序ってことでいいらしい」
いいのかそれで。光る赤子とか生まれて某ヒーロー学校の話みたいになるぞ。
「まぁ、ルール説明は以上だ。ここからはクッソ理不尽な内容だ」
話を要約すると
1:この儀式は出来レースである
2:99対1(俺)で行われる
3:異能の中にはほぼ不死身に近い能力が混ざっている
4:当然探知に優れた能力もいる
「ふっざけんな!」
なんだよこれ、絶対に勝てるわけないじゃん! 毎日いつ殺されるかもわからずこそこそして生きろっていうのか!?
「まあ、安心しろ? ちゃんと直談判してお前だけは死んでも生き返られるようにしてもらったから」
「だから安心して死ねって?」
ふざけんな。というか殺人強要されている時点で最悪だな。
「同族殺してはならないなんて人間、それも力ある奴が勝手に定めたルールだろ」
「いや、そうだけど・・・」
「まあ、一応その辺も交渉しといてやる。その方が気兼ねなく戦えるしな」
それならいっか。とはならんと思うが・・・
「質問は以上か?」
そういわれて。特にこれと言って思い浮かば「ああ」とあいずちを打つ。
「そうかそうか。ならこっからはお願いだ」
「おねがい? 儀式とは関係ない別枠?」
「そう。率直に言うとなるべく長生きしてほしい。この際理由を言うと自由な期間が欲しい」
彼が言うには神様候補に選ばれるとは思っておらず、勉強をしてこなかったらしい。
それでいいのかと思うかもしれないが、皆が相手側が次の神様になる。そう確信してまともに勉強させず、彼もそれを良しとしてきた。
それを聞いてこのあからさまな出来レースについて納得する。 相手側贔屓されすぎだろ、どんだけ愛されてんだ。
「で、あんたは勝ちたいのか?」
「いんや?」
即答かよ。じゃあ勉強する意味ないじゃん。
「負けても補佐役になるんだ。勉強しといたほうがいいだろ」
真面目か? というかこれもしかして・・・
「むこう惚れてる?」
「・・・どうだろう。隣の芝理論の可能性が高いんじゃない?」
色恋に疎いのかマジでそうなのか気になるところだ。
「まあ、俺こんな見た目だし。その可能性は低いんじゃね?」
「いや、電話越しで姿の話されても・・・」
「は?」
え?
「いや、まて。今お前どこにいる?」
「えっと。どこかの公衆電話だけど」
急激に彼は笑い声をあげる。
「いや、これはやばい。マジでやばい」
えっとどういう状況?
「いいか。イレギュラーが混ざった。これが吉と出るか凶と出るかは知らんがあんたを守ろうとしている誰かがいる。これのおかげでさっきからのぞき見している誰かさんには偽の情報がまわった」
いや、見られていたのなら何か対処しておけよ。
「というか、声聞かれてるんじゃない?」
「え、お前初見の犬の鳴き声聞き分けれんの?」
説得力がありすぎる。
「いいか、無理に攻めるな生き残ってればそれでいい。それとあんた、できるなら守ってやってくれ。それじゃあせいぜい生き残れよ」
そういうと電話がきれ、眠気のような感覚が襲う。
「やっとあえるね」
そして意識が途切れるとき、少女の笑い声が聞こえた気がした。