ミコシとモモの短くて長い2匹旅
これは「ミコシ」という大切な名前をくれたネズミの「モモ」と僕のどこにでもあるくだらないちょっとしたお話。
出会いは汚い路地裏、出会い方もいたって普通で
お腹が空いた僕が群れからはぐれて1匹でいたネズミを襲おうとした時だった
「お願いします!ゆるしてください!」
「ダメだ、食い殺そうとしてきたお前に同情の余地はねぇ」
「なによりオレも腹が減ってたところだ、ちょうどいい、腹も満たされるし敵も減って一石二鳥、オレが生きやすくなるってもんよ」
この時の事は今でもよく憶えてる
あの時のモモは本当に空腹で気が立っていたんだろう、今でも忘れられないくらいそれはそれは恐ろしい形相でよだれを垂らし、こちらを見てきていた
それとは対照的にあの時の僕は本当に凄く情けなく映っていたんだと思う
ネコ「お願い!助けて!本当はこんなことしたくなかったんだ!!」
ネズミ「言い訳無用、諦めろ!諦めてオレの腹を満たす糧となれ!」
飛び掛かってきて僕の喉もとに小さな身体には似合わないノコギリのような歯を突き立てて噛みついてくる
ネコ「最悪だ!こんなことなら家族や周りの奴らに言われた通りじゃなく、好きに生きればよかった!くそ!自分の生きたいように生きればよかった!!!」
思いっきり泣きじゃくり大声を出した。くび元に生温かいものがつたう。本当にダメだと思った
その瞬間
ドサッ!
身体が思いっきり壁側に吹き飛ばされる
突然のよく分からない痛みに目を開ける
すると、背中を向けてトボトボと歩き去ろうとするネズミの姿があった
急いでくび元に手を当てて確認すると、嚙みちぎられていない、傷もない
代わりにさっき感じた生温かいものは、泣きじゃくった自分の涙や鼻水、よだれだった
ネコ「どうしてっ」
頭に浮かんだ言葉を思わず口走ってしまった
足を止めてこちらを振り向くわけでもなく
ネズミ「オレと同じような気がした、、、から」
そのまままた歩き出すネズミ
先ほどまであんなに大きく恐ろしく見えたあの面影はどこにもなく、今なら食べれちゃうんじゃないかと思ってしまうぐらい弱々しい背中だった
ネコ「同じってどういうこと」
ネズミはまた歩みを止めた
でも今度はなにも言わず少し上を見上げまた歩き出した
ネコ「待って、僕も行く」
急いで彼を追いかけた
ネズミ「ついてきても良い事なんてなに1つないぞ」
なんて返そうか迷ったけど、あまりに元気の無い姿を見てちょっと励ましたいと思った僕は
ネコ「そんな気がする」
そういったらネズミは少しだけ笑ってくれた
ネズミ「あぁー腹減ったなぁ、ちきしょう」
ビルの隙間から朝焼けが指す光に向かって2匹でトボトボと歩く
お互いお腹の虫を鳴らしながら