俺ができる精いっぱいのアドバイス
予約投稿ミスって時間がずれました。すみません。
マーカムに怒られてしばらくは静かになったんだけど、しばらくしてロージィが舌打ちをした。
「アディ、あんた騙したわね」
「うわ、こわ。え、騙したって何々? やっぱもつれてんじゃーん?」
「うっさいわね! 黙っててよ、おっさん!」
罵られたのに、スペンスはニヤニヤしている。
「騙したってなんだよ」
「あんた、ガランドン商会の馬車に乗ってるなんて一言も言ってなかったじゃない。あの時、こっちの馬車に乗せてもらってたら私だけでもこんな目に合わずに済んだのに」
「はぁ?」
いや、おかしいだろ。
「騙されてたにせよ、護衛の仕事を受けたんだろ。それでなんで他の馬車に乗れるんだよ」
「別に他の馬車に乗ってたって、護衛の仕事ぐらいするわよ」
「離れてたら護衛の意味ないだろ……」
「ていうか、実際守れてないわけだしね。ぷぷぷ」
面白そうにスペンスが横から茶々を入れてきたけど、まぁ、そうだよな。
もっとも自分たちを拘束してきた相手に対して護衛をするべきかって言ったらどうだろうとは思うけど。
もちろんギルドは犯罪行為に加担するような依頼は認めてないから、もし拘束されなかったとして、あの場合正しい対応は『速やかに他のパーティに協力し、依頼主を捕縛した後にギルドへ届け出、違法行為について報告すべし』だ。
だけど、それは結果論であって、巻き込まれなかったなら、それはそれでギルドで釈明しなきゃならない。
「あんな連中守る必要ないでしょ!」
「ところでさぁ、別の馬車に乗っても護衛できるってことは遠隔系のスキル持ってるの?」
揶揄ってる時とは若干毛色の違う楽しそうな表情でスペンスがロージィに聞いた。
「……はぁ? 索敵ぐらいは当然できるわよ」
「いや、それは斥候系の職種なら珍しくもないでしょう? そうじゃなく、遠隔系の攻撃や防御ってこと」
「そんな便利なスキル持ってるわけないじゃない」
「え、それでどうやって他の馬車から護衛するのさ? あ、そういう魔道具を持ってるとかかな」
「別に一緒に移動してるんだから、何かあってもすぐに駆けつければいいじゃない」
ワクワクしてロージィに話しかけていたスペンスは、あからさまに興味を無くして溜息を吐いた。
「なんだぁ、つまんない。取り立てて何かできるってわけじゃないのか」
「なっ……」
スペンスの口振りに、ロージィは顔を赤くしてブルブルと震えた。
「乗せませんよ」
セドリックさんが静かに言う。
「信用の出来ない冒険者など、主の馬車にお乗せするわけにはいきません」
「なんでよ! 何で私の実力を決めつけられなくちゃいけないのよ!」
「誰も実力の話なんかしてないよ」
俺はロージィを刺激しないようになるべく静かに言った。
その実力も怪しいものだけどさ。
「私だって、こんな魔力封じの魔道具をつけられてなかったら、何かあっても戦えるし、守れる! 今回のことは仕事を受けてきたカスハが馬鹿だったんじゃない。何か起きさえすれば私の強さを証明してみせる!」
「そんなこと言って、魔力封じの枷をつけられたし、今はこうやってまともに身動きも取れないことに変わりはないじゃないか」
何か起きさえすれば、ってそういう不測の事態に備えるのが護衛じゃないか。
守る術もないのに離れたいっていう発想が理解不能だし、どんなに強くても近くに居なくちゃ護衛対象のことはろくに守れない。
「なによ、アディの癖に偉そうに! ぎぃーーーーーー! ふざけんな、何であんたごときに説教されなきゃならないのよ」
ロージィは喚きながら、ジタバタと身を捩った。
その姿は飛び跳ねる海老みたいだ。
「ぶっは! 何この子。すっげー面白いんだけど。うはははは、すげえ。よくこんな姿勢で跳ぶなぁ。あはははは、あはは、ひぃー。面白い」
スペンスはロージィを指さしてゲラゲラ笑っているし、ロージィはますます怒り狂って聞くに堪えない悪口雑言を呪詛みたいにまき散らしているしで、馬車の中がとんだカオスだ。
俺は大きく溜息を吐いた。
「ロージィ。君がもしこの先も冒険者を続けていくつもりなら、悪いことは言わない。一旦『蜜花の集い』を離れて、違うパーティに入った方がいい」
「……え」
やっと俺の話を聞く気になったのか、ロージィがぴたりと動きを止めた。
「俺もソロになって初めて知ったけど、ノーマもカスハもリディも冒険者として必要な常識や知識がなさすぎる。彼女たちに付いていってもまた似たようなことに巻き込まれるぞ」
ロージィはのろのろと顔を上げると、不服そうな顔をして俺を見る。
そう言えばロージィだけはガリオンと俺より年下なんだよな。
年下って言っても一個しか違わないけど。
それでも、俺だって年下の女の子に、何か教えてあげられたはずなんだ。
俺ひとりが見下されている状況を受け入れていたのは、きっとロージィのためにもよくなかった。
俺が置かれた環境に慣れてしまったから、俺を見下してもいい相手だと思ってあんな態度を取っていたんだから。
だけど、俺がロージィにあげられるアドバイスなんて、ノーマたちと離れろっていうぐらいしかないらしい。
「そうだ。解体の講習は受けるといいよ。解体がスムーズにできるようになると、その魔獣の弱点も分かるようになる。解体ができれば、買い取ってもらえる素材の価値も上がる」
俺にできる渾身のアドバイスだったのに、ロージィは泣き崩れた。




