お待ちかねの昼食タイム
「さ、俺たちも昼飯にしようぜ」
とりあえずのところ、今日はどこからもお誘いがかかってないから、キースと二人の昼食だ。
「あぁ。昨日獲ったボアがあるから急いでそれ解体しちまうな」
「え、今日もあったかいものが食えるの? やったぁ!」
定石どおりに干し肉と固パンでもいいけど、とりあえず俺も美味いものでも食べて気持ちを落ち着けたい。
ざっと解体をして、調理しながら片づけをしていく。
魔法が使えるようになったおかげで、解体がものすごく楽になった。
「ボアの毛皮はいるか?」
「んー、それ使うのはどっちかっていうと革職人だろうな。ホーンラビットくらいなら飾りや小物で扱うんだけども。でも、ドレスに使ったら面白そうではあるよな」
ボアの毛皮で出来たドレスってどんなだよ。
そんなの似合う奴……いるな。アリスなら着こなせそうだ。
「そんじゃ、こいつはギルドに売るか」
「おう、買い取れなくて悪いな」
「いや、別に」
こういう時は煮込み料理だ。
焼く時と違って火加減をずっと見ていなくても平気だから、片手間に別の作業ができる。
「キース、ちょっと鍋見といて」
「え、見てればいいのか?」
鍋見てるだけで何で腰が引けてんだよ。
「焦げ付きそうだったら呼んで」
「お、おう。頑張る!」
任せておいたらヤバそうだから、とりあえずそれだけ言いつける。
こういう奴に火加減とか、鍋を混ぜるとか、期待しちゃいけない。
俺はそれをガリオンでしっかり学んできた。
見ててって言ったら、本当に見てるだけだったりするからな。
くつくつと煮えている鍋をキースに見てもらいつつ、解体の後片付けをしていると、何人かの男が俺たちに近づいてきた。
「なんか用か?」
あぁ、こいつら、商隊についてきてる連中か。
「ひぇっ」
「うわっ」
顔を上げると、声を掛けたわけでもないのに男たちは後ずさり、踵を返して逃げて行った。
「……なんだ、あれ」
「その顔見て驚いたんだろ」
「あぁ!」
痛いのは痛いけど、朝起きてから時間もたっているし、もう特に話題にもしていなかったからすっかり忘れていたが、今俺の顔は痣でエライことになっている。
彼らは何か用があったのかもしれないが、その顔を見て怖気づいたということだろう。
「飯時に何しに来たんだろうな?」
「……さぁ?」
逃げるってことは多分ろくな用事じゃなかったんだろう。
俺たちは気にしないで飯を食うことにした。
「お兄ちゃん」
俺たちが飯を食っていると、女の子が声を掛けてきた。
一瞬どうしようかと思ったけど、そちらに顔を向けると女の子は「ひっ」と小さく声を上げた。
「……何?」
大の男も怯むくらいだもん、怖いよな。
声を掛けてきたのは、昨日ぐずってた子だ。
できるだけ優しく声を掛けたらほっとした様子で、女の子は小さな声で言った。
「あの、……お肉の骨、残ってたらくれませんか、ってお母さんが……」
俺はキースと顔を見合わせた。
「ごめん、もう埋めちゃったんだ」
「そっかー……」
ぺこん、と頭を下げて、女の子は「骨ないって」と叫びながら家族の元に戻っていく。
「……骨なんかどうすんだ?」
「解体した後も、骨には結構な量の肉が残るからな。骨ごと茹でてスープにしたり、ほじって食ったりするんだよ」
「なるほどねえ」
説明してやると、キースはあんまり興味なさそうに頷いた。
冒険者をやってると、解体後売れない素材は始末してしまうし、なるべく高く売れるところしか持っていかないから、最近骨回りの肉なんて気にしなくなっていたが、平民なら常識の範疇だろう。
俺だってガキの頃はそんな肉でも夕食に出たら大喜びだったし。
綺麗に切られた肉なんて、何かいいことがあったときの御馳走だ。
そういうのを知らないってことは、こいつ結構な金持ちの生まれなんだろうな。
「……あざといよなぁ」
煮込みを口にしたキースは唸るようにつぶやいた。
「ん?」
「さっきの女の子。わざわざ子供寄こしたってことは、子供相手なら喜んで骨ぐらい寄こすし、あわよくば……みたいなことを考えて寄こしたんじゃないの」
「お、おう……」
そこまでは考えていなかった。
解体中に近づいてきた連中も俺の顔を見るまでは妙にニヤニヤしてたな。
あれもひょっとしておすそ分けにあずかろう、ってつもりだったのか。
「……自然に治るまで顔治さない方がいいのかもな」
「ジャクロウすげえなぁ」




