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経験値横取りにキレた俺は女装で無双する  作者: 白生荼汰
第三章 過去が背中を追いかけてくる

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先輩からのありがたいお小言

「おい、いいか。来な」


 夕食の支度をしようとしていたところで、ジャクロウが声を掛けてきた。


「ちょっと待て。お、俺も行く……!」

「は? なんで? お前ソロじゃなかったのか?」


 キースの申し出に、ジャクロウがいぶかしげな顔をした。


「そっちは俺の雇い主。ソロで雇われてる」

「……はぁー。なるほどね。まぁいいか。坊ちゃんの晩飯もお前が用意してるのか?」

「……あぁ」


 別に仕事の内ではないけど、誰だって干し肉と固パンよりもあったかいものが食いたいだろうし、一人分を用意するのも、二人分を用意するのも大して変わらないから別にいい。どっちみち、余裕があれば自分の分は作るんだから。

 素材も冒険者ギルドに売るよりは高く買ってもらえるし、どっちにとっても悪い話ではないんだけど、ジャクロウは呆れた様子で肩を竦めた。


「坊ちゃんの飯を作る間待つか?」

「そうじゃない。お前たちがアディに話をするなら同席すると言ってるんだ」


 見た目と、あと俺が殴られたからビビっているんだろうに、俺に付き添ってくれようというのだろう。

 なんていいヤツなんだ、キース。


「まぁ、いい。どうせひとりもふたりも変わらん」


 連れていかれた先には、リーコット商会の商会頭だと言っていた男も含めて、狼牙(ろうが)のメンバーが揃っていた。


「あれ、ふたり? もう飯は食ったか?」

「いや、まだらしい」

「それじゃ、食っていきな。自慢の煮込みだ。うんまいぞぅ」


 人の好さそうな男がたっぷりと具が盛られた器を俺とキースに手渡してくる。


「あ、ど、どうも……」

「ありがとうございます。……うっめぇ!」


 キースは迷いも躊躇もなく(さじ)を突っ込んで称賛の声を上げている。

 何の肉と野菜かと確認していた俺は出遅れた。


「あ、うま……」

「だろう?」


 何がどう違うのか、コッテリとしていて煮込まれた野菜が甘くて、俺が作るスープなんかとは一味も二味も違う。


「これ、おっさんが作ったの? 店出せるって。俺が保証する! だから、もう少しもらっていいか?」

「ばぁーか、もう店は出してんだよ。ほらよ、器寄こしな」


 調子よくしゃべりながらがっついているキースに、人のよさそうな男がお代わりをついでやった。


「どうした、腫れがひどくて食えねえか? 沁みるか?」


 殴ったのは自分のくせに、心配そうにジャクロウが聞いてきた。


「あ、いや……それは……平気、だけども……」

「ソロで護衛じゃろくなものが食えないだろう。食える時に食っとけ」

「それがアディも料理上手いんだ。おっさんほどじゃないけど」


 ジャクロウよりも年上に見える男が気遣うように俺に声を掛けてきたのにも、キースが元気よく答える。

 俺はどうしたらいいのかわからずに、ちらちらとこの場にいる面々に目を向けた。


 ジャクロウ、リーコット商会の会頭だと言っていたガラの悪い歯の抜けた男、どうやら料理屋らしい人のよさそうなところがかえって胡散臭い小太りの男、ジャクロウよりも年かさらしき男、背が低く落ち着かなそうに首をひょこひょこ動かしている男、どうもどれもこれもやっぱり柄が悪そうだ。


「そう身構えるなよ、別に取って食いやしねえよ」

「いきなりぶんなぐられりゃ、そりゃ警戒するだろうよ。無茶言ってやるな」


 年かさの男が苦笑して、コップに口をつけた。

 匂いからして酒だろう。

 依頼受けてる最中にも呑むなんて余裕があるおっさんだな。


「あー、そう。その話だよ」


 ジャクロウがガシガシと頭を掻く。


「おまえ、しばらくは気をつけろよ。勝手なことをしたら相手も自分も殴られるんだ、って言っておけ。この依頼の間くらいならそれで通じる。タダで【回復(ヒール)】なんて時と場合と相手を選ぶんだな」

「へ?」

「気持ちはわかるが、あれはダメだ。やり方をもうちょっと考えろ。でなきゃ喰い殺されるぞ。お前は人が良すぎる」

「出たよ、ジャクロウのおせっかい」


 料理屋がゲタゲタと笑った。


「人が良すぎる、ってお前が言うなよ。なぁ?」

「他人殴っといて人が良い……?」


 キースが思わず、という風に聞き返すと、年かさの男が答えた。


「俺たちのリーダーは呆れるほど人がいいだろう? 不用心なガキのために泥被って悪役になってまで喰い物にされるの止めてやったんだから」


 ジャクロウは苦虫を噛み潰したみたいな顔をして俺を見た。


「いいか。あの連中が悪人だとは俺も思わねえし、後味が悪くなるようなことは避けてえよ。でもな、商隊に便乗して護衛もつけずにくっついてくるような連中だぜ。タダで使えるとなりゃ際限なく集られるし、程度を考えろって断ろうもんならたちまち悪者にされて逆恨みだ。一回くらいいいだろう、少しくらいいいだろう。あの時はやってくれたじゃないか。そう言われて断れるか?」

「……あ」

「お前のやり方じゃ、その場ではそんなつもりがなくても、そういうヤツを作っちまうんだよ」


 ジャクロウに言われて、俺はやっと気がついた。

 このくらい、このくらい、その繰り返しが、ガリオンであり、ノーマたちであり、イーサンだ。


「どうやら思い当る節があるみてーだな」

「……はい」


 俺って奴は学習しない……。

 しょぼくれていると、キースが感心して声を上げた。


「はぁ、なるほど。見た目に寄らずにいいヤツだな、おっさん」

「おい、そりゃどういう意味だ」

「え、褒めたんだって」


 キース、それは褒めてない。

 ジャクロウは溜息をついてから、締めくくるように言った。


「まぁいい、若い時ってのはやらかしがちなもんだ。その痣が残ってる間くらいは考えてみるんだな」

「……ありがとうございました」

「何、礼なら何かあった時に【回復(ヒール)】を頼むぜ。もちろんタダでな」


 ニヤ、と笑う顔はどう見ても悪人だったけど、ジャクロウがしてくれたのは、いつでも【回復(ヒール)】無料ぐらいの価値のある説教だった気がした。

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