どうして殴られた?
「ばかやろう!」
「でっ!?」
いきなり後頭部をガツンと叩かれて、目の前に火花が散った。
「なんだって勝手なことをしてやがる。せっかくの儲け口がぱぁじゃねえか!」
「ぐぶっ!?」
俺を怒鳴ってみぞおちを蹴り上げたのはジャクロウだ。
え?
な? いきなり何?
突然加えられた暴行にゲホゲホと咳き込んで反吐を吐く。
「おらっ、こいよ! いくら襲われたのが初めてだからって錯乱しやがって」
髪を掴まれて物陰に連れ込まれると、一発顔を殴られて頭が揺れて膝をつく。
「勝手に【回復】の無駄遣いか。ふざけんな、このボケ! 見せしめにこの傷ぁ治すんじゃねえぞ!」
ジャクロウはこっそり聞き耳を立てている連中に聞かせるためにか大きな声で怒鳴ると、俺の髪を掴んだまま苦々しげに小声で囁きかけてきた。
「下手うったな。しばらくは一人にならないように気をつけろ。それと、顔は腫れるだろうがせめて明日まで治さずにおけ」
何でいきなり殴ってきたくせに、こんな心配しているみたいな声を掛けてきたんだ?
「勝手なことをするとどうなるか、これでわかっただろう?」
ジャクロウは改めて怒鳴りつけて、ついてきた人たちの前に俺を連れ戻った。
「やっちまったもんはしょうがねえから今回の金は取らねえけどよ、【回復】が安いもんじゃねえってのはお前たちにもわかるだろう? こっそりこいつにタダで治してもらおうなんて考えた日には……わかるよなぁ?」
じろりとジャクロウが見渡したせいで、せっかくほのぼのしていた雰囲気があっという間に凍り付いて重苦しいものとなってしまった。
さっき、魔法を綺麗だとはしゃいでいた女の子はポカンとしているし、怪我をしていた男性は真っ青だ。
「お前に説教はまだ終わっちゃいねえぞ。夜は覚悟をしておけ」
ジャクロウはそういってどこかに行ってしまった。
見た目はともかく、親切にしてくれたジャクロウの豹変に、ついてきた人たちは何が起こったのかわからないみたいな顔をして、ちらちらと俺と狼牙の面々を見ているが、一言も発しない。
殴られたところは熱を持ってじくじくと痛い。
今更明るくお話をするというわけにもいかず、静かに座り込んでいるとすぐにジャクロウが戻ってきて「おい、終わったぞ」とぶっきらぼうに言った。
「おら、もう馬鹿野郎どもは片付いたから、自分が乗ってきた馬車に戻んな」
しっし、と追い払われて、残ったのが俺と狼牙だけになると、ジャクロウは深々と溜息をついた。
「あのお嬢ちゃんたちも大概だと思ったが、お前も大概お花畑だな。さっきも言ったが、その顔は冷やすぐらいにしておいて、しばらく治さずにそのままにしておけよ。多少は牽制になるだろう」
「牽制……?」
何故怒鳴られ殴られたのかもよくわからず、呆然としたままでいる間に、『双轍』と『狼牙』で手分けをして、ルファナ商会の連中と、彼らが手引きした賊のうち生き残ったものを縛り上げて、彼らの馬車に詰め込んだ。
『蜜花の集い』に関しては意見が分かれていたが、ひとまず魔力封じは外さず、移動中は拘束したまま、3つあるガランドン商会の馬車とリーコット商会の馬車にひとりずつ分散して順繰りに乗せることになった。
一見すると彼女たちはただの被害者のようにも思えたが、グルである可能性も捨てきれなかったからだ。
ただ、適当に運ぶだけの賊どもと一緒にしておくのは流石に気の毒だということで、多少の融通を利かせた形だ。
「うわ、アディその顔どうした?」
馬車に入るなり、キースが目を丸くした。
殴られた顔はこのわずかな時間でぼったりと腫れ上がり、口を開くのも辛い。
「怪我した人がいて……【回復】かけたら、勝手なことをするなって殴られた」
「なんだよ、それ! もう早くポーション飲んで治しちゃえよ」
収納カバンに手を突っ込んだキースを、ゾルガが手で制した。
「なぁ坊主。殴ったのはジャクロウか?」
「あ、はい」
「なるほどなぁ。明日まで治すなって言われたろ?」
「はい」
「まぁ、おっさんの言うことは素直に聞いとけ。今日の晩飯はしょっぱいものや辛いものは避けた方がいいぞ」
そう言って、ゾルガはニヤニヤとしている。
「【回復】、使えるの……?」
縛られて大人しく座っていたリディが驚いた顔をして俺を見た。
「あぁ、まぁ……」
別に隠していたわけじゃなく、袂を分かってから覚えたものだとはいえ、なんとなく気まずい。
「そっか……あの、アディが……」
リディは考え込むみたいにうなだれてしまった。




