本当の強さとは
無事、ついてきた人たちをガランドン商会の馬車近くに避難させ、リーコット商会の会頭とその部下、もうひとり『狼牙』のメンバー、俺の面子で周囲を警戒する。
ジャクロウとあとふたりいた『狼牙』の面々は、森に戻って周囲の探索をしている。
「大丈夫、大丈夫だからね」
お母さんのスカートを掴んでずっとぐずっている女の子に声を掛けると、不安そうなままではあるものの頷いてくれた。
「おおよそは片付いたけど、まだ安全の確認をしているところ。残党がいる恐れがあるから、ついてきた人たちを近くに避難させている」
「了解」
念のため馬車の外から声を掛ける。
中からイスルガの返答が返ってきた。
「お、お兄ちゃん、冒険者なの……?」
重たい空気の中でぐずっていた子が気丈にも俺に話しかけてくる。
「そうだよ」
「すごいね」
涙でぐちゃぐちゃの顔で、にこっと女の子が笑った。
「リュー、お兄ちゃんも冒険者なんだって」
お母さんが抱えている小さな弟に向かって一生懸命にお話している少女に、なんだかほんわりした空気が生まれた。
「あんた、大丈夫かい?」
「ことが片付いたら、商人さんか冒険者さんにポーションを売ってもらおう。大丈夫、あたしらもお金を出せば何とか……」
怪我をした人の周囲にいる人たちが、口々に彼を励ましている。
魔法を使えないだろうひとには貴重な水や、布を使い、できる限りの手当てをしているが、あちこち傷だらけのボロボロだ。
肋骨の辺りを傷めたのか、ヒューヒューと息も荒い。
「あのね……あのおじちゃんが、悪い人たちから私たちを守ってくれたの……」
ぼそっと女の子が呟いた。
「あぁ、そいつのおかげで何とか俺たちが間に合って賊どもを追っ払えたんだ。喧嘩慣れもしていなさそうなのに、勇敢な男だよ」
『狼牙』のメンバーに褒められて、脂汗を垂らしながらへへ、と怪我をした男性が笑う。
「勇敢だなんてそんな……しがみついて邪魔をするので精一杯でしたから……」
俺は衝撃を受けた。
俺が冒険者だし、冒険者を志した時から強くなりたいと思ってきた。
なるべく安全を心がけて、戦い方を学んで、防具や武具を揃えて、身体を鍛えて、レベルを上げて、地道に強くなってきたつもりだ。
でも、強さってなんだ?
護衛のついた商会を襲ってくるぐらいだから、賊たちだってそれなりの力量を持っているだろう。
鍛えていない、レベル上げをしていない人よりも、よっぽど強いはずだ。
そんな、おそらく敵わないだろう相手に食らいついていったこの人は、きっと本当の意味で強い人だ。
俺がこの人の立場だったら、同じことができただろうか。
払えないかもしれない、なんて、この人達のことを考えているみたいなことを言って、ポーション一本出し惜しみした俺は本当に強いんだろうか。
「すみません」
「え?」
俺は怪我をしている男性に一礼して、傍らに跪くとその手を取った。
「【回復】」
「ふわっ!?」
ぽわっと温かい光が広がって、怪我している部分に収束していく。
「きれーい……」
女の子が思わず言葉が溢れたみたいな感じで声を上げた。
「【回復】【回復】【回復】【回復】【回復】【回復】」
俺の力では、一度では回復しきれない。
何度も【回復】を連続で掛けて、小さな傷を一つずつ治していく。
この勇敢な男性に敬意を表して、俺の出来る全力で【回復】を掛ける。
「聖女だ……」
「聖女様だ……」
その光景を見ていた人々が口々に呟いた。
……いや、おかしいだろ。
聖女ではないからね。聖女では。
初歩の【回復】なんて、使える奴は使えるし、神官なら当たり前に使えるから。
せめて、一歩譲ってもそこは聖人だろうよ。
「【回復】、【回復】……」
「ちょ、ちょっと待ってください、聖女様!」
呆気にとられていた怪我した男性が慌てて俺を止める。
「……聖女ではないかな」
別に俺、今女装もしてないしな。
「そんなに治療をしていただいても、治療費が払えません!」
俺の抗議には答えず、男性は悲鳴みたいな声を上げた。




