人は見た目じゃない
「ちぃとお前にゃ頼みがあるんだ。そのまま静かにこっちに回って来い」
一瞬迷う。
きっと『双轍』の面々は、俺も邪魔になったら切り捨てるだろうけど、せっかくあれだけ仲良くなった人たちの邪魔にはなりたくないんだよな……。
でも、俺一人で『狼牙』に敵うとも思えない。
ここはひとまず言うことを聞いておいて、隙を伺うべきだろうか。
こくり、と小さく頷く。
「いい子だ」
スカスカの歯を剥き出してジャクロウが笑う。
俺はジャクロウに促されるままガランドン商会の馬車を離れ、ルファナ商会の後ろ側に回った。
気付かれないように後続だった勝手に商隊の移動についてきた馬車の中を見る。乗っている人々が震えながら息をひそめて蹲っていた。
女性や子供もいて、泣き声を上げないように必死に抱き合っている。
一人、ひどく怪我を負っている人がいた。
「この人たちは……」
「頼みてえのはこいつらのことだ」
ジャクロウが血に汚れた剣で人々を指す。
「……俺に何をさせるつもりだ?」
緊張したまま聞くと、ジャクロウは深々と溜息をついた。
「ガランドン商会の馬車なら安全だろ? こいつらを守る義理はないかもしれないが誘導してやってくれ。周辺は俺らが守る」
「……へ?」
「移動しようって声を掛けたんだが、俺らのこのナリじゃ、どうも信用してもらえなくってなぁ……なぁ、奥さんら。俺らはともかく、このひょろっこい優しげな坊ちゃんなら怖かねえだろ?」
話しかけられた女性はびくっとして、それから恐る恐る俺の方を見た。
俺だって困惑してるけど……でも、泣いてる子供も可哀そうであやすために笑顔を作った。
「D級冒険者のアディです。俺、ガランドン商会の馬車に乗せてもらってるんで、そっちで匿ってもらいましょう」
「ほ、ほんとに……?」
とても信じられない、とでも言いたげに気丈そうな奥さんが俺に問いかけてくる。
「はい。それに見た目はこうですけど『狼牙』の皆さんは、頼りになる強くて優しい先輩なんです。その『狼牙』の皆さんが守ってくれるから大丈夫」
……いや、知らんけど。
俺の言葉に、蹲っていた人たちがざわざわし始めた。
実際『狼牙』の連中がどんなんだかは知らないけど、ここにいてルファナ商会の連中の人質を増やしてもめんどくさいし、あれだけガランドン商会の馬車に近づけたジャクロウなら、俺ごときが変な警戒をしたところで無駄だ。
意図はわからないけど、ここはジャクロウのいうことに乗っておこう。
「すみません、よろしくお願いします……」
ようやく腹を決めたのか、ついてきた人たちが頭を下げた。
俺は怪我をしている人に肩を貸した。
今ポーションをあげてもいいんだけど、そうなるとインベントリのことがばれるし、昨日のキースとの話の後でインベントリをほいほい使うのもどうかと思って、ちょっと躊躇している。
それに、ポーション結構高いんだよな。
移動するのに、護衛付きの馬車じゃなくて、商会の移動にタダ乗りして付いてくるような人たちに、ポーション代が支払えるかどうかわかんないしなー。
まだ森に隠れていたらしい輩もいたけど、それは『狼牙』の連中が何とかしてくれた。
えぇ……頼りになるぅ……。
見ただけじゃどっちがどっちかわからないけど。
「……あれ、リーコット商会の護衛は?」
ふと気になって聞くと、ガラの悪い一人の男がぺこりと頭を下げた。
「あ、俺、腕を怪我して引退したんすが、元『狼牙』のメンバーなんす。そんで、商会の株買い取って商売始めたところで……俺がリーコット商会の会頭なんす」
……なるほど、商人じゃなくて『狼牙』のメンバーなのかと思ってた。
『狼牙』の面々は昔の仲間の護衛をしてたのか。
そういう繋がりで護衛頼んだのね。




