ストラボアのシチュー
日が暮れる前に本日最後の野営地につく。
途中何度か小規模な魔獣との交戦はあったらしいが、道程はなかなかに順調だ。
ちなみに俺は馬車の中なので移動中は接敵していない。
「ぬぁー? これ、どうやって固定するんだ?」
「何やってんだ、キース」
「いやあ、このテント使うの初めてで……」
「貸してみろ」
「悪いね、アディ」
「いいけど別料金な」
「ぬなー!? やっべえ、まじで? 金足りるかな?」
蒼褪めているキースを横目に、俺は新品のテントをせっせと組み立てた。
「冗談だよ。しかし、出発前にテント組み立てる練習はしてこなかったのか?」
俺が初めて野営をする前は、野営道具一式出発前に確認も兼ねて近場で使う練習したけどな……。
初めて手に入れたものが嬉しくて、散々遊び倒したともいう。
「い、いやぁ……せっかく買ったんだから、この旅で初めて使いたくて……実は広げたのすら、買う時に瑕疵がないか確認した時だけなんだよね……」
……その気持ちもまぁ、わかる。
テントの設置を終えたところで、『双轍』のメンバーが一人近づいてきた。
「夕食の準備まだみたいでちょうどよかった。アディ君、よかったらうちで一緒に夕食にしないかい?」
「えっと……」
「あ、もちろん雇い主さんの許可が取れたらだけど」
ニコニコと人懐っこそうな男性は、ゾルガと同じく濃紺の髪と紫の目をしている。
すっと視線が泳いだのは、どこに雇い主がいるのか探したのだろう。
「あ、はいはい! 俺! 俺が雇い主のキース! もちろん構わないんだけど、俺も呼ばれてもいいかな?」
「もちろん」
雇い主と一緒になってテント設営をしているとは思わなかったんだろう。
男は少し驚いた様子で、でも快諾した。
「俺は『双轍』の錬金術師イスルガ。いやぁ、あの後兄貴に扱かれたのはキツかった。アディは初対面でよくあそこまで喰いついたもんだ」
「イスルガはやっぱりゾルガの弟だったんだ。道理で似てると思った」
「やめてくれよ。俺の方が知的でいい男だろ?」
あはは、と明るい笑い声を上げるイスルガは、中肉中背でアントスやゾルガみたいな偉丈夫に比べると普通に親しみやすい。
知的という自己申告の通り、見た目からして前衛職ではなさそうだ。
「お、きたきた」
「きたか」
「どうも」
俺たちを待っていてくれたのは、アントスともう二人。
最初に明るく声を上げたのはスキンヘッドで、それほど背は高くないもののアリスといい勝負ができるんじゃないかってぐらいムキムキの薄着の男。もうひとりは濃いブラウンの髪を短く刈り上げている落ち着いた男だ。
「拙はパウル。『僧兵』のギフトを受け、『双轍』ではタンク役の一翼を担っておる」
「マーカム。鞭使い。よろしく」
「改めてになるけど、『双轍』リーダーで槍使いのアントスだ」
それぞれに自己紹介してくれるのを受けて、こちらも挨拶を返す。
「アディを雇った『服飾師』のキースです。よろしく!」
「知られてるみたいだけど、アディ。片手剣を使ってる」
今回来ている『双轍』は、総勢8名のはずだけど、ここに居るのは4名だけだ。
昼間稽古をつけてくれたゾルガの姿もない。
「あれ、他の人は……」
「あぁ、それは……」
「あ、よかったぁ。お夕飯まだですよね」
アントスが答えかけた時、よく知っている声が言葉を掛けてきた。
「皆さんと仲良くなりたくて、たくさんご飯作っておすそわけに来ました。私もご一緒させてください」
現れたのはカスハだ。
新しいゲストの登場に、『双轍』のメンバーが軒並み微かな警戒を見せたのを感じた。
「ふふふ、アディもいるのね。ちょうどよかった。昼間にストラボアが取れたから、私が得意なボアシチューにしたの。アディ、ボアシチュー好きだったわよね」
俺を足掛かりに警戒を解こうとでもいうのか、やけに親し気にカスハが話しかけてくる。
いや、そんなことを言われても、俺もここではゲストなんだし、リアクションに困るんだけども……。




