人がおっさんになるのはいくつから?
午後の休憩でキースはガラン爺さんとのお茶に誘われた。
キースにとっては唯一の護衛である俺は離れるわけにいかないけど、爺さんらが見える範囲にいればいいか。
時間があれば狩りに出て夕飯用の肉を確保してから、昼の残りの肉を焼くつもりだったんだけど、そう上手くはいかないか。
これが雇われ仕事の辛いとこだな。
ロージィのせいで物足りなかった腹は、干し肉を齧って宥めて、軽くスクワットを始める。
アリスに叩き込まれた特訓のおかげで、筋トレをしないと落ち着かない。
夜番や朝起きた時にでもやるかと思ってたんだけど、今体を温めておいたっていいだろ。
「っじゅに、……にっじゅさん……」
あんまりでかい声でカウントしたら悪目立ちしそうだけど、声を出すと息が整うって言ってたから、小声で数も数える。
昼にホーンラビットを捕まえた時は、ほとんど身体を動かさなかったし、ずっと馬車に乗りっぱなしだから、何となく体が錆びついてるような感じがするんだよな。
かといってキースを連れたままだと、あまり野営地から遠くに行くわけにもいかないし、なかなか難しい問題だ。
キースは付いてきたがるだろうけど、キースを守りながら狩りをするのはあんまり現実的じゃない。
狩りは最低限の食糧確保くらいしかできないな。
「感心だな、坊主。こんな真面目な奴、アントス以外に初めて見た」
「……ども」
ひゅう、と男が吹いた口笛はうまく音にならずに掠れている。
へったくそな口笛だなぁ。
音になっていないのが余計に軽薄な雰囲気を醸し出している。
話しかけてきたのは、『双轍』ナンバー2のゾルガだ。
人間山脈みたいなアントスと並ぶと小柄で細く見えるが、近寄ってこられると充分に厳つい大男だ。まぁ、このぐらいなら普通に大柄ぐらいの範疇だけど。
初めて見た、ってのは冗談のひとつだろう。
冒険者や騎士、戦闘職らしき人間が休憩地で体を鍛えているのはよく見る風景だ。
「どうだい、イイ子の僕に優しいおいちゃんが手ほどきしてやろうか」
楽しそうに手招きされて俺はポリポリと頭を掻いた。
馬鹿にするような言葉ではあるけど、口ぶりに嫌味はない。
ともすれば、本当に子供を可愛がっているような、温かく優し気なものだ。
「見たとこ、おいちゃんって程の年じゃないだろ」
「おっ、嬉しいこと言ってくれるねえ。坊主はいくつよ」
「俺は16」
「かぁあ! 若い! 若いねえ! 一番いい時期じゃないの」
たはー、っと楽しそうに首を振っている。
多分、この人おしゃべりが好きなんだろう。
構ってもらえて嬉しい、みたいな感じがする。
本当にそこまではおっさんじゃないけど、村にもこういうじいさんとかおっさんいたなぁ、と懐かしくなった。
見た目とおそらくの実年齢の割に、言動だけは充分おっさん臭い。
酒を飲んでいる様子はないが、いうなれば陽気な酔っ払いのおっさんみたいな空気がにじみ出ている。
「で、いくつなんです?」
「28」
「別におっさんじゃないじゃん!」
「16のわかもんと比べたら、充分おっさんでしょーよ」
「それ、本物のおっさんや爺さんに聞かれたら怒られるやつだからな」
別に怒りやしないだろうが、本物の爺さん代表のガラン爺さんやセドリックさんの方に顎をしゃくる。
「違いない。ガランディード老から見たら、俺なんて赤ちゃんだな」
「それもそれで大げさだけど」
「……で、どうよ」
ゲラゲラ笑い声を上げてから、ゾルガは余裕たっぷりに俺に問いかけてきた。
そんなもの、答えは一つだ。
「お願いします!」
どうしてそんな声を掛けてくれたかはわからないけど、A級冒険者からの手ほどきを受けられる機会なんて、そんなにない。
暇つぶしかもしれないけど、相手をしてくれるなら願ったりかなったりだ。
「元気のいい返事だな。よっしゃ、君を俺の弟子にしてあげよう!」
「あ、それは遠慮します」
「断るのはええ!」
楽しそうな声を上げつつ、俺とゾルガはお互いの得物を構える。
俺は片手剣と盾、ゾルガの手にあるのは双剣だ。
「それじゃ、よろしくお願いします!」
「あ、今更だけど名前は? 俺は『双轍』のゾルガ」
「アディです。行きます!」
ぎゅん、と踏み込んで挨拶代わりの一太刀を振るう。
右手の剣で軽くいなされて距離を取られた。
おう、この一瞬でゾルガの間合いになってる。
俺の方が背が低い以上、まずは飛び込んでいかないと話にならないが、足を踏み込める隙が見つからない。
「うわ、この人強いな……」
何の気まぐれか知らないけど、こんな人が稽古をつけてくれるなんて、この依頼受けてよかったかもしれない。




