自覚がないやつら
「いやー、すげえわ。聞きしに勝るっつーか」
「ん、なにが?」
「アディ、抜けて正解だろ。あんな扱いされて、よく2年も耐えてたな」
ガラン爺さんの馬車に向かいながら、キースがしみじみ呟いた。
あ、爺さんってのはキースがガランじいちゃんって呼んでたのが伝染ったんだけど、それでいいって言われた。
「耐えてた……のかな。しがみついてた気もするけど」
「そりゃあれだ、ギャンブルの負けが込んで注ぎ込んじゃう奴とか、ろくでもねえ女に舞い上がっちゃう奴と一緒。ここまでやったんだから何かいいことあるはずだと思っちゃうんだよなー。商売は損切大事だけど、人間関係でも同じだよな」
「損切?」
「これ以上注ぎ込んだら損するわー、ってラインを見極めろってこと。新しいことを始めようと思ったらある程度の投資は必要だけど、掛けたものを食い潰すだけってこともあるから、金、時間、気持ち、どんだけ掛けようが、無駄になる時は無駄になる」
「おぉおぉお……何か冷酷な意見だな」
「だってさぁ、ただでアディのインベントリ使わせろ、ってアディのインベントリの一部を盗んでんのと変わんなくね? アディが気持ちよくどーぞどーぞってんならそれでも構わねえけど、それって当たり前に使われていいもんじゃねえぜ」
怒られてるわけじゃないけど、ドキッとした。
いいように使われてるって、使われたままでいる方もよくないよな。
「インベントリの話、間に入ってくれて助かった。本当はちゃんと俺がきっちり断るべきだったのに、キースに任せて悪かったな」
「付き合い長い方が言いにくいってことはあるからなー。あぁいうタイプははっきり言った方がいいぜ。このくらいいいでしょ、で迷惑かけてる自覚がないからな」
「自覚がないのか……」
なるほど、そうだろうな。
ガリオンもそうだけど、基本自覚も悪意もない。
その場で言っても自分の頼みが通れば聞き流すくせに、あとから文句を言ったところで『言えばよかったのに』と言われるばかりで消耗するからだんだん文句を言うのすらおっくうになって、その積み重ねが、こいつにはこのぐらいのことをしてもいいんだって認識になる。
断るなら、初めからきっぱり断らなきゃダメなんだ。
「大体、アディのスキルを知ってるかもわからない俺の前で、勝手にインベントリ持ってる前提で話するのがもうおかしいだろ」
「え? けど、インベントリ持ちなんて、そう珍しい能力でもないだろ」
珍しいと言えば、珍しいんだよ。
でも、いないかと言えばそうでもない。
例えばそこそこの規模のギルドで呼びかければ、3日で2~3人は軽く手が上がるくらい。
俺ぐらいの……他に何も入れなきゃオーク2~3匹入る程度の小規模なインベントリ持ちなら、10組もパーティを当たればひとりふたりは混ざってる。
大きめの商会なら、専属で大規模インベントリ持ちを何人か雇っているって話も聞く。
「珍しくはないけど、冒険者じゃなく商人ならインベントリ持ちは、規模にかかわらず就職活動の時以外は秘匿するのが普通だぜ。他人がばらすなんて賠償金ものだね」
「賠償金!?」
飛び出した物騒な言葉に驚いて声を上げてしまった。
「そうだよ。だって誰がインベントリ持ちかわかってたら、仕入れの時にそいつを連れ攫えば商品横取りし放題だし、小規模でも証文や高額商品持ってるかもしれないだろ?」
「なるほど……職業が違えば常識も違うもんだ」
冒険者からすると、インベントリは便利だけど無償で使えるマジックバッグぐらいの位置づけだもんな。
商品が入ってるだろう商人のマジックバックと違って、冒険者のマジックバッグなんて何が入ってるかわかったものじゃないから、そもそもの価値が違うんだろう。
戦闘時に解体してる余裕なんてなかったりするから、倒した獲物を丸ごと放り込んだっきり碌に整理しないなんて話もざらに聞くし。
そのマジックバッグの価値がそのまま、冒険者と商人にとってのインベントリ持ちの価値ってわけだ。
「それにあんないい加減な使われ方で状態の悪い素材詰め込まれるよか、アディ自身の採取を優先してほしいね。せっかくお得に素材入手するチャンスなんだからさ」
「あれ、状態悪かったか?」
俺の目にはそこまで状態が悪いようには見えなかった。
「ノッキングバードだぜ? 一番高く売れる尾羽はともかく羽根がボロボロだったろ? あーもったいねぇ」
「羽根を傷付けずに鳥種を倒すのはかなり技量がいるぜ?」
「そこは頑張って」
キースは笑いながら俺の背中をパーンと叩いた。




