言われても響かない
「ごめん。俺個人で来てるから、相乗りさせてもらってるんだ」
キースは『どこに』とは言わなかった。
そうだよな。
ガランドン商会の馬車に、なんて言ったらゴネられそうだもんな。
ロージィはまだ勘違いしているみたいだし、この際その勘違いに乗っからせてもらった方が面倒がない。
「そうなんだー……リーコット商会の連中はなんか匂いそうだし、女の子もいなかったし……」
ロージィはしばらく悩んでいる。
ちなみにガランドン商会にも女性は同行していない。
勝手についてきている中には女性がいたけど、突然知らない相手に乗せろと言われても困るんじゃないだろうか。
「依頼主から言い出したわけでもなく他の馬車に移りたいとか、護衛受けてる最中にありえないだろ」
「なによ!」
俺が呆れて言うと、ムカッとした様子で言い返してくる。
「私たちが受けてるのは護衛なのよ。身売りの依頼を受けた覚えはないわ。それなのにあいつらときたら……」
忌々しそうにロージィがルファナ商会の方を見る。
……あー、ノーマとカスハは異性との距離感近いからな。
べたべたされても平気……というよりも、扱い方によっては喜々として受け入れているんだろう。
それで同じパーティメンバーだから、ってロージィも同じように扱われているんじゃないかな。
地味にリディも切れていそうだ。
「おーい、そろそろ出発するぞ」
ガランドン商会の下働きの人が声を掛けて回っている。
おっと、使ったものを片付けなきゃ。
「それじゃ町までこれよろしく」
当たり前の顔でロージィがノッキングバードを顎で指した。
「は?」
「私たちの契約だと、ルファナ商会に売らなきゃいけないのよ。でも、解体と運賃でかなり値切られるの。あいつらに売って儲けさせるのも嫌だし。だからインベントリに入れておいて。時間があるときに解体しておいてくれてもいいわよ。あ、だからってくすねないでよね」
「それって、契約違反になるだろ。売るのが嫌ならわざわざ獲らなきゃよかったじゃないか」
「このぐらいバレなきゃ平気よ」
契約違反にはペナルティがある。
確かにこのぐらいの軽微な契約違反なら大したペナルティにはならないかもしれないけど……契約違反の片棒を担がされるのはちょっとな。
「お断りします」
きっぱりといったのはキースだ。
「はぁ? 何よ、あんたには関係ないでしょ」
むっとしてロージィが食って掛かるが、キースは宥めるように苦笑している。
「商人同士でそういう信義に悖ることをされると、現在の依頼主の俺の問題になってくるんですよね」
「なんでよ、アディの問題でしょ?」
「アディとの契約はインベントリも込みなんで。もしルファナ商会さんから許可が出たとしても、契約外で余分にインベントリ圧迫されるなら、きっちり契約結んで使用料払って貰うことになります」
そんな話はじめて聞いたけど、ロージィは俺の話なんて聞きそうもないし、ここはキースに任せてしまった方がいいかもしれないな。
俺が黙っていると、ロージィが俺のことを睨んできた。
「知り合いのよしみでこのくらいいいでしょ」
「そうなると俺に違約金払って貰うことになるけど、いい? 俺もトラブルには巻き込まれたくないし、俺も知らなくて被害にあった形にしなきゃ割に合わない」
困った風な素振りでキースが俺に問いかけてくる。
「いや、俺は契約違反をする気はないよ」
「そうか、よかった。いや、俺みたいな若造じゃ、よそに睨まれると肩身が狭くてさー」
へらへら笑いながら話をする間に、野営の痕跡を片付ける。
水魔法が本当に便利。
魔法が使えるようになってマジでよかったよな。
「え……魔法……」
今更気が付いたのか、ロージィがびっくりした様子で俺の手元を凝視している。
さっき、嫌みのつもりで勝手に口つけられた器を洗ったのに、気が付いてなかったのか。
うわ、無駄なことした。
「あぁ。『暁の星』を追い出されてから教えてくれる人がいて、使えるようになったんだ」
「……そう」
ロージィはもの言いたげに黙り込んだ。
「ほら、そろそろ出発だって言ってたろ。早く行かないと」
キースに促されて俺が荷物を持ち上げると、ロージィもノッキングバードを片手にしぶしぶ立ち上がる。
「ほんと、使えないやつ」
ロージィは、吐き捨てるみたいに捨て台詞を吐いて行った。
今の俺はそんな風に蔑まれたところで、これっぽっちも傷つかなかった。




