図々しい話
「うわ、ほんとにアディだ。ずいぶん痩せたね。あの後、病気でもしたの?」
近づいてきたのは元『暁の星』、現在は『蜜花の集い』に所属する【暗殺者】のロージィだ。
普通に近づいてきたのは、別に気配を隠す必要もないからなんだろう。
その手にはノッキングバードがぶら下がっている。
ノッキングバードは羽根が装飾品として高く売れるんだけど、あんまり美味くない。羽根さえ綺麗に獲れれば、そこそこの稼ぎにはなるけど、風と木属性の魔獣なので一番効くのが火魔法となかなか採取としては難しい魔獣だ。
討伐だけなら簡単なんだけどね。
「別に病気なんかしてないよ」
「そう、ならよかった」
ロージィは断りもなく俺たちの前に腰を下ろし、串焼肉に手を伸ばした。
「ホーンラビットかぁ、つまんないもの食べてるわね」
勝手に喰っといてその言い草!
他人のものに手を付けてそれかよ。
大体食えてないとか病気とか、痩せてから会う奴会う奴、失礼すぎだろ。
お世辞でもかっこよくなったとか、精悍になったとか言えないのかよ。
……いや、かっこよく……なってねーけど。
地味さに磨きがかかってるけど……。
「なんでパーティのメンバーとじゃなく、ふたりで食事してるの? 貧弱すぎて苛められてるとか?」
俺は貧弱じゃねーし、だいたいキースとは初対面なのに失礼だろ。
「……俺、今はソロでやってるから。こちらは俺の依頼主」
「どうも」
「え? あ、ごめんね。てっきりあの【狼牙】ってとこに入ったのかと思ってた。よくソロで冒険者続けようと思ったね。やってけてるの?」
ロージィはビックリした様子で謝りながらさらに失礼なことを言ってくる。
「やってけてるから、ここにこうしているんだろ」
「よくアディなんか雇おうと思ったね。よっぽど護衛を雇う余裕がなかったとか?」
「あまり契約金が高くないのは事実ですが、今回よい護衛を雇えたのは幸運だと思っていますよ」
話を振られて、キースがやけにニコやかに答える。
「そう。まぁ護衛なんて、何も起きなければ誰がやっても一緒だしね」
ひとりで納得して、ロージィは俺がお代わりを注いだスープを奪い取った。
「ちょ……それ俺の」
「別に回し飲みなんて気にしないからいいわよ」
お前が気にしなくても俺が気にするとは思わないんだろうか。
「なんでここに来たんだよ。自分のパーティで飯食えばいいだろ」
嫌味かな、と思ったけど、奪い返した器を水魔法で洗い、もう一度お代わりを注ぐ。
「ありがと」
「お前のためじゃねーよ」
「あ、ごめん。食べたかった?」
「……そうじゃねーよ」
喰いかけを戻されそうになって顔を顰めると、ロージィは不思議そうな顔で二杯目のスープを飲み干した。
「うちらのとこ、食事は依頼主持ちなんだけどキモいんだよね」
「はぁ?」
「食べさせて、とか、はいあーん、とか、冗談にしてもきっついっての」
プリプリとした様子で、串肉に喰いついている。
別パーティだっていうのに、遠慮の欠片もねーな。
「挙句の果てに、哨戒なんて他の商会が雇った奴らに任せておけばいいから適当でいいよ、なんてふざけてるとしか思えない」
ルファナ商会って、チャラチャラした感じのおっさんが商会頭だったっけ。
髭の生えたいかにも遊び慣れてそうなおっさんと、その弟のやっぱり遊んでそうな、なよっとした感じのおっさんと、商会の従業員3人で来てるはず。
従業員の一人が女性だから女性パーティに護衛依頼したのかと思ってたけど、そういう目的だったのか。
だとすると、女性従業員も雰囲気が違う感じだったのは、従業員ってわけじゃないからかもしれない。
「ずいぶん適当に護衛を選んだんだな……」
呆れた顔でキースがルファナ商会の方を見やった。
食事の支度はカスハがしているようだ。
護衛というよりも、身の周りの世話ができるかどうかで護衛を選んだっぽいな。
そういう選び方も別に悪いとは言わないけど。
「馬車に乗ってる間も、経験人数とか聞いてくるし、やたらに触ろうとしてくるし、こんな依頼受けるんじゃなかった」
串焼肉、俺らふたりで半身も焼いたら余るだろうし、って思ってたのに、ロージィが容赦なく喰うせいでむしろ足りない気がしてきた。
後で午後の休憩の時に残りを焼くかなぁ。
「だからさ、そっちの馬車に乗せてくれない? この午前中だけで、いい加減うんざりなの。護衛が適当でいいって言ったのはあいつらだもの。構わないでしょ」




