山のような男
「お前のとこ、護衛もひょろっこいな。こりゃあ、アントスが護衛ごと守ってやらなきゃならないかもしれないぞ」
ガハハハハ、と笑ったのはつるん、と頭頂部が禿げた爺ちゃんで、芽が出たばっかのタネみたいにひょろんとしてるのに、やけに生気に溢れていた。
爺ちゃんの名はガランティード。
フレメミア王国では名の知れた商人で、かつては叙爵の話もあったのに軽く蹴飛ばしたなんていう伝説を残す豪傑だ。
豪傑って言っても見た目だけで言うならいたって弱弱しいただの爺様だけど。
「ん」
無口に頷いたアントスは見上げるほどの大男で筋骨隆々。人間じゃなくて山なんじゃないかってくらいに泰然自若としている。
こ、これがA級冒険者の威厳……。
アントスはパーティとしてもA級の『双轍』を率いるリーダーだ。
リーダーと言っても、もう一人のリーダー格、ゾルガとは対等だと聞いている。
「ガランじいちゃーん、そんなこと言わないでやってよ。こいつは絶対化けるから。な?」
あぁ、化ける、というだけなら、女の子になら化けられます……何て冗談を軽く言えるような性格なら、もう少し上手く世渡りができていたんじゃないかな。
俺はただ、今まで遭遇するとも思わなかった雲の上の存在に唖然としていた。
「D級冒険者のアディです。よろしくお願いします」
「ほっほう、きちんと挨拶ができる子じゃな。よろしい! ファラネーサまで、キースのことは頼んだぞ」
「はい」
ガランティードさんとキースを見比べるがあまり似ているとは思えなかった。
キースはすっと通った目鼻立ちの、よく言えばスッキリとした癖のない顔立ちをしているけど、ガランティードさんはごっつくて角ばった鼻をしていて、目じりには柔和そうな皺があるけど、その皺も、いかにもそう見せまして彫りつけました、と言いたげに計算して作り込まれていそうだ。
陽気で優し気な爺ちゃんに見えるけど隙がない……どころか、この一瞬で値踏みされてる感が半端なかった。
「え……お孫さん……?」
見た目もそうだけど、ガランティードさんとキースでは、匂いというか、雰囲気というか、放つ気配が全然違う。
例えていうなら、リザードとドラゴンというか、パッと見は似ていても種族からしてまったく違うとか、そんな感じの、同じ商人にしても生き方の根本が違うみたいな……。
「はっはっは、だったらよかったんだがのう」
「俺も、こんな爺ちゃんが欲しかったー!」
「何なら今からでも孫になるか?」
「お孫さん、可愛いけどまだよちよち歩きじゃん! あとは男ばっかだし」
「なぁに、女の子の成長は早い。あっという間に素敵なレディになるわい」
「ダメだよ。その前に俺がおっさんになっちゃう。釣り合わねーって。それに俺みてーなのがあの子の婿に立候補したら、親父さんと妹大好き兄弟に殺されちまわぁ。俺まだ死にたくねーもん」
ゲタゲタと笑いながら、ガランティードさんとキースは年の差や立場の差など感じさせない親密さでじゃれ合っている。
ずいぶん仲がいいんだな。
そのまま、お孫さんのドレスやら何やらに移行して話し始めたふたりをちらりと見て、アントスが俺に向き直った。
「武器は?」
「片手剣です」
まだ修行中だけどな。
「……なるほど。他に使えるものは?」
「魔法を少し。軽い回復ならできます」
俺の答えにアントスは何かを検討するみたいに口元に手をやり、キースの方を見て、それから俺に視線を戻した。
「それなら、いざという時には本当に君にキースは任せてしまっても大丈夫そうだな」
「はい」
胸を叩いてお任せ下さい、とまでは言えないけど、護衛依頼は受けているから、当然その分は俺の仕事だ。
「対人戦闘の経験は?」
「……ありません」
模擬戦やちょっとした喧嘩の経験はあるけれど、この場合の経験とは、ずばり殺し合いをしたことがあるか、って話だろう。
今までにも護衛依頼を受けたことがないわけじゃないけど、近場の採取での護衛しか受けたことがないから、盗賊(ギフトではなく悪党の方)なんかに襲われたことはない。
商隊護衛だと、もちろん街道に出る魔獣の警戒は必要だろうけど、それと合わせて人間に対する警戒も必要になるんだろう。
誤魔化した方がいいのかもしれないけど正直に申告すると、アントスは少し考えてから、口を開いた。
「今回、賊に遭遇した場合はキースの護衛を優先。特に配置には組み込まないでおくから、自分たちの身を守って逃げろ」
「はい」
あ、こりゃ、役に立たなさそうだと判断されたな。
少し悔しいような気もしたけど、経験不足なのは事実だ。
俺は素直に引き下がり、交渉成立の握手をした。




