ダッドリーの解体講座
「僕はハラド=ヴァランジールと言います。この王都ギルド東地区支部の総括次長を担っています。便利屋のおじさんだと思ってくれればいいよ」
「俺はD級冒険者のアディと言います。よろしくお願いします」
「若い子にしては礼儀正しいねえ。向上心もあって、君みたいな冒険者には今後活躍をしてもらいたいところだ」
はっはっは、と快活にハラド次長は笑う。
ナントカ長ってつくからには、ここの偉い人なんだよな?
その割にやけに親しみやすい。
見た目も小柄で、おそらく俺の親父よりも年上なんだろうけど威圧感はない。
歳のせいか額はやや広くなっているけど、腰のなさそうな髪はふわふわとして量が十分にあり、そのあたりが年取って落ち着いた犬みたいな印象に繋がっている。黒い毛と茶色の毛と白髪が混ざり合っているのが、余計に犬っぽさを醸し出しているんだろう。
俺みたいなガキがそういう評価をするのも失礼な気がするけど、ギルドなんかより、子供に囲まれているのが似合う優しそうで可愛らしいおじさんだ。
「寄生蜂は自分で倒したのかい?」
「そうです……っていってもいいのかな? 無我夢中で、気が付いたら死んでたんで」
「教会でちゃんと浄化は受けた?」
「それはもちろん」
「お、ちゃんと勉強してるねえ。重畳重畳」
寄生するような魔獣には、寄生体を人里に持ち込む危険性が伴う。
それが自力での解体を避けた理由でもあるんだけど、人体に憑りついた寄生体を無力化するには、教会か神官に浄化を受ける必要がある。
『暁の星』で寄生樹を倒したことになっていたから、町に戻ってすぐ全員で浄化は受けている。
「おーい、この子に寄生蜂の解体を見せてくれないか?」
解体室の扉を開け放つなりハラド次長が言うと、肩からタオルを下げているおやっさんが「あぁ?」と顔を上げた。
「解体見学希望か。そいつは珍しいなぁ」
「頼むよ、ダッドリー」
「かまわねえよ。ほら、こっちにこい」
ダッドリーさんはそこらの冒険者顔負けな上腕二頭筋の持ち主で、やけに艶のある肌をしている男だ。
口元の皺の目立つ顔には大きな傷があって、それが近寄りがたい風格を醸し出している。
短く切りそろえた緑の髪は、よほど毛が固いのか天に向かって逆立っていて、強情そうな気質を表しているかのようで、ちょっと怖い。
「よ、よろしくお願いします」
「おう。この寄生蜂は兄ちゃんが自分で倒したのか?」
「は、はい」
「ずいぶんきれいに倒したもんだ」
感心した様子で転がしながら確認してから、ダッドリーさんの解体講座は始まった。
他の解体職人もわらわら集まってきて感心しているから、相当きれいに倒せているものらしい。
寄生蜂は空を飛ぶし、黒くもなくて毛が生えているけど、虫系魔獣だ。
なので、ビートル系などの虫系魔獣と同じく関節部が弱い構造になっている。
バキバキと大胆に腑分けしていく割に、ダッドリーさんの作業は繊細で、説明もわかりやすい。
「今現物がないが、こいつの翅は見た目に反して水分を吸いやすい。それと寒いときには動きが鈍くなるから、水魔法や氷魔法が使えるやつがいるといい」
「あ、俺、水魔法なら使えます」
「けど、こいつを倒したのは聖魔法だ。違うか?」
「は、はい……多分そうです」
自信がなくてもごもご答えると、ダッドリーさんが不思議そうな顔をした。
「多分、たぁ、どういう意味だ?」
「あの……発動したのが偶然というか、その時初めて聖属性が目覚めたので……」
「あぁ!」
納得した、という風にダッドリーさんは頷いたけど、他の解体職人たちは悲鳴みたいな声を上げた。
「うわ、そんなこと本当にあるんだ」
「おとぎ話かと思ってた」
わいわい解体職人たちは騒いでいる中、ハラド次長が労わるみたいに俺の背中を撫でてくる。
「それは……大変な目にあったねえ」
「え? えぇ……」
何で皆が騒いでいるのかがわからず、置いてきぼりになった気分を味わっていると、ハラド次長に驚いた顔で見られてしまった。
「おや、知らない?」
「何を……ですか?」
「君、ギフトは?」
「剣士、ですけど」
「あぁ」
今度はハラド次長が納得顔で頷いた。
「神官や聖女、御子以外で、聖属性に目覚めるのは珍しいから、知らなくても無理はない」
「はぁ……」
「君、『超越せしもの』『不屈』『死に戻り』とか、そのあたりの称号を得たんじゃないかい?」
得たばかりの称号を言い当てられて、今度は俺が驚いた。




