アディちゃんにサヨナラを
「ここが王都か……いてっ」
「おう、ぼうっと突っ立ってんじゃねーよ田舎モン!」
「あ、す、すみません」
検閲門を潜ってすぐ、感慨深くなって街並みを眺めていたら、後ろからどつかれた。
いててて……でも、人の流れを邪魔した俺が悪いか。
恥ずかしくなって周囲を確認してから、そっとその場を離れる。
さすがに王都は忙しい人が多いのか、歩く速度が誰も彼も心なしか早い気がする。
あんまりぼんやりしてると変な輩に目を付けられかねないから、まずは早いところ冒険者ギルドを見つけよう。
宿や食事処なんかは、ギルドが紹介してくれるだろう。
ほどなくして冒険者ギルドを見つけ、扉を潜る。
王都のギルドだから大きいのかと思ったら、そうでもなくて拍子抜けした。
……と、思ったらここ、王都本部じゃなくて東地区支部だった!
ギルド内に置かれた案内図を見たら、本部の他に東、西、南、と3つも支部がありやんの。
北には王城がある。
王城って言っても、実際に城があるのは中央付近で、北側は王城の敷地らしい。
王都ってめちゃめちゃ広いのに、その4分の1くらいは王城の敷地になっている。
王城、広すぎない?
どうやって生活してるんだろ。
城の中の移動だけでも馬が必要そうだ。
えぇえええ、王都って4つもギルドがあるのか。
それだけ冒険者も、依頼も多いんだろうな。
「買取お願いします」
王都のギルドは効率のためなのか、買取と、依頼受付と、依頼達成報告、依頼申し込みの窓口がそれぞれ別になっていた。
だから、この窓口でわざわざ買い取りだと宣言することもないんだけど、つい習性でね。
「はい、承ります。買い取り対象に解体予定のものはありますか?」
「あります」
「では、こちらにお願いします」
時間停止と転移の陣が展開された領域に寄生蜂の本体を出す。
翅は毟ってリズたちに渡したけど、他の部位に関してはそのままだ。
「ではお預かりします。他にはございますか?」
スターカやコルネッタじゃ、C級魔獣の解体なんてちょっとした大騒ぎになっちゃうんだけど、さすがは王都。
受付のお姉さんも淡々と処理してくれる。
「あります。素材と、それから使わなくなった装備を買取に出したいのですが」
寄生蜂以外の素材に関しては、王都に来るまでの道中などで討伐したものも含め、その場で解体してきている。
その方が買い取り価格が高いのもあるし、解体の腕が上がれば、後々冒険者を引退することになっても就職口があるから、少しでも場数を踏んでおこうかと。
スザンナも、解体は量だって言ってたしな。
寄生蜂だけは、まだ寄生する機能がどうなっているかわかったもんじゃないし、生態もよく知らないから、素人が手を出すより熟練の解体士にお任せした方がいいだろう。
「では、こちらに素材を、装備はこちらにお願いします」
素材をどさどさと出し、装備も同じように出す。
今回売りに出す装備は『アディちゃん』が貢がれたものの中で、『俺』にはちょっと使えない、使いにくい、ものだ。
もう『アディちゃん』をやることはないから使わないだろうし、いい加減インベントリの整理もしておきたい。
……小花模様のペンダントとか、どうすんだよって話だろ?
男女関係なく使えるものと、あと明らかに女性向けでも、ちょっと売ったら高そうなレア度の高い奴は取っておくことにした。
自分でも貧乏性だとは思うけど、高くてかさばらないものなら、あとで生活に困ったときの助けになりそうじゃん。
ありがとう、貢いでくれた男たち。
アディちゃんはお前らの心の中で今も笑っているよ。
ひとつだけ、女性向けだし高いわけでもないのに売らないでおくのは、ベンがくれた木彫りのチャームだ。
別にベンを偲ぶために、とかいうわけではない。
いや、そうなのか?
ただ、別に俺自身が何かされたわけでもないのに、復讐対象に巻き込んで踏みにじってしまった男たちの純情を悼み、戒めとするため取っておくことにした。
憎いわけでもないのに、騙しちまったのは本当によくなかった。
反省してます。
「鑑定と査定に少々お時間いただきますが、いかがなさいますか? そのままギルド内でお待ちいただいてお呼び出しするか、明日以降にお受け取りになるか、もしくはギルド口座にお振込みになりますが」
「振り込みでお願いします。それで、お願いがあるんですが……」
「はい、なんでしょう?」
「寄生蜂の解体を見学することは可能でしょうか」
受付のお姉さんは何度か瞬きをした後、えーと、と考え込んでしまった。
「ギルドでは定期的に解体講習を行っていますが、寄生蜂の講習はなかなかないですね……」
「お、いいよ。見学していきなよ」
受付嬢の後ろを通りかかった小柄なおじさんが、気楽に声を掛けてきた。
「ハラド次長!」
「感心感心。勉強熱心な冒険者を支援するのも冒険者ギルドの役目だからね。ほう、こりゃ解体の方もなかなかいい腕じゃないか。いやー、期待が持てるねえ」
おじさんは俺が解体したものをひょいひょい確認すると、こっちこっち、と手招きしてくれた。
「あとの手続きお願いします」
ペコリと頭を下げると、受付嬢は先ほどまでとは違って、少しだけ人間味のある微笑みを浮かべて「任せておいて」と請け負ってくれた。




