死ねない理由
「クッソ、ヨナの裏切り者ぉおおおおおお!」
ガリオンが咆哮した。
……けど、まぁ、あながちヨナのことは責められない。
調査依頼なんかは『生きて帰って報告する』のも依頼の内だ。
力及ばず、と判断したなら、個別にでも早々に撤退しギルドに報告すべきだ。少なくとも建前上は。ヨナの行動は間違っていない。もちろんパーティメンバーが心情的に割り切れるかどうかは別として。
調査依頼なのに討伐を主張したのはヨナもだしな。
だが少なくとも、自分勝手に突撃したお前が言うな、という話ではある。
「くそっくそっくそっくそっくそっ……」
手数に優れた盗賊のヨナが抜けたことによって増した寄生樹の猛攻を必死になって切り払う。
攻撃の主体となっているガリオンか俺、どちらかが抜けたら、他のメンバーに待ち受けるのは死だろう。
かといって、他の三人のうち誰かを逃がせるかと言えば、どうもそれも難しそうだ。
火魔法を使えるわけでもなく攻撃力の低いリズならば、抜けても大勢に影響はないが、逆にリズには逃げるだけの力がない。
仮に逃げられたとしても、町までに何か魔獣に出くわしてしまえばそれで終わりだ。
「天空を切り裂き、唸れ【雷の槍】!」
「モイラ、MPの無駄遣いをするな! 切り口を焼きふさぐのに徹底しろ!」
モイラが無言のままギリィと唇を噛み締める。
詠唱付きの雷魔法はトレントにぶっ刺さり、表皮を焼き焦がしたが、それだけだ。
倒しきるには威力が足りない。
威力が足りない場合はどうするか?
まずは相手の攻撃手段を徹底して奪い去り、小さくとも生命力をけずりそいでいくのだ。それを積み重ねていくしかない。
これは『惑う深紅』で徹底して教えられた逃げられないし勝てない時の戦い方だ。
もう死にそうだってのに、少しでも腰が引ければアリスにケツを蹴り飛ばされて、あの時は本当に殺す気なのかと思ったな。
彼らならば一撃で屠ることのできる敵に、サポートされつつ必死にくらいついていくのだが、結局とどめまでは届かずに途中でぶっ倒れる。下手をしたら剣を突き立ててもダメージすら入らず、経験値にもならない。
そういう討伐も何度かあった。
「うわぁっ!」
「ぐぁっ!」
「ぐっ……ジョーイ、俺はいいからガリオンにヒール! モイラはガリオンのサポートに、ジョーイは回復に専念!」
俺の装備はこう見えて耐久重視だが、攻撃重視のガリオンの防具は比較的軽装だ。エリーさんに防具をあつらえてもらったり、男どもからエンチャント付きのアクセサリーを貰っている俺よりも耐久値が高いとは到底思えない。
別に助けたいわけじゃないけど、ガリオンが行動不能に陥ってしまえば、俺一人ではこの攻撃をしのぎ切れない。
「っこの!」
俺は剣に火魔法を纏わせることで、切り口を焼きながら切り落とす。
火属性があってよかった。
そして、魔法の使い方をスザンナに教わっててよかった。
これ、魔法の使い方を覚える前なら速攻で詰んでた。
C級魔獣の耐久値にだって、限界がある。
絶対に倒せない相手じゃないんだから、最後まであきらめるもんか。
「きゃあっ!」
おそらく一番レベルの低いリズが行動不能に陥った。
「リズ!」
「ガリオン、よそ見をするな!」
「がはっ!」
気を逸らしたガリオンの肩を一本の根がぶっさし、剣を取り落す。
あぁ、もう馬鹿!
なにやってんだてめえ!
「ぐぅっ」
「……っ」
続いてジョーイが撓る枝に打ち据えられ、モイラがMP枯渇で倒れる。
「ぐぁああああっ」
背後から俺の腹が貫かれた。
……駄目だったか。
俺はここで死ぬのか?
決別したはずだったのに、結局ガリオンと一緒に死ぬだなんて、なんていう腐れ縁なんだ。
まったくイヤになる。
身動きが取れなくなってトレントを睨みつけていると、バリ、とモイラが焼き焦がしたトレントの表皮が剥がれ、そこからデカい蜂が姿を現した。
「……あ、れは……」
寄生蜂?
寄生樹と同じくランクCの、他の生物に寄生して繁殖する魔獣だ。
寄生樹と違うのは、生前の宿主と近い行動をすることで……はっ、寄生樹が寄生蜂に寄生されてたなんて笑えねーな。
……ちょっと待て。
寄生樹に寄生されたのなら、宿主は明らかな異常行動をとるようになる。
アンデッドに近い動きしかしないため、比較的寄生されているのは明らかなので、討伐されやすい。
またアンデットの被害の拡大を防ぐため処理は問答無用で焼却だ。
しかし、寄生蜂の場合、生前の宿主の行動をトレースするせいか、突然奇行を始めたように見えるため、若干討伐が後手に回るし、アンデッドや寄生樹に寄生された被害者と違って問答無用では処理されにくい。
つまり、死後、死因を調べられてしまうかもしれないわけで……。
まずいまずいまずい!
今、俺、どんな格好をしている?
そして、一緒に居るのは誰だ?
これって、女装してまでガリオンを付け回していた、なんて見られたりしないか?
そんなの、死んでも死に切れん!
「がぁあああああああああああ! 死・ん・で・たまるかああああああああああ!」




