この木何の木、危機になる木
「あれ、こんなところに木が生えてる」
しばらく進むと、入り組んだ岩山の一角に一本の木が生えていた。
岩山に生えるなんて根性のある木だ。
その根元に12体のゴブリンと一匹のロックウルフがいる。
「……あ? ゴブリンキングじゃ、ない?」
「だから言ったじゃないですか!」
首を傾げるガリオンに、焦りまくったリズが声を潜めたまま叫ぶように言った。
ロックウルフは単体であればD級の魔獣だ。草原に住むE級のフォレストウルフと違い、体毛が固く、岩山に住むためか足腰が強靭で素早い。
しかし個体数は少なく生息は奥地であるため、俺たちのようなD級以下の冒険者では、遭遇する機会がほとんどない。
「まぁまぁ。ゴブリンキングじゃなくたって、D級魔獣であることに変わりはないでしょ。おあつらえ向きに単体みたいだし、ロックウルフは素材としても売れるから、むしろラッキーだったんじゃない?」
ニヤニヤしながらヨナがリズの肩に手を置いた。
「おかしい。ロックウルフ、本来、群れで、生きる」
モイラが警戒を示すように杖を掲げたまま、ゆっくりと後ずさった。
「だから、何? 群れからはぐれたんじゃないの?」
「それにしたってゴブリンと行動を共にするなんて考えられないわ」
馬鹿にするような口ぶりのヨナに、ジョーイもいぶかし気に疑問を呈する。
「どっちにしろ倒してから考えればいいだろ!」
「あ、ガリオン!」
意思統一をする暇もなく、ガリオンがひとり飛び出してロックウルフに切りかかった。
「しょーがないわね。援護よろしく!」
「ちょっ! 物理攻撃軽減!」
同じく突出したヨナに、慌てながらもジョーイが物理防御の魔法をかける。
モイラが範囲魔法で数匹のゴブリンをまとめて倒す間に、ガリオンがロックウルフを倒していた。
「……んー? 弱っていたのかな。ほとんど一撃だったぞ」
ツン、と剣の先で倒したロックウルフを突きながら、ガリオンが首を傾げる。すると、倒したはずのロックウルフの腹が波打った。
「ひぃっ!」
倒したロックウルフの穴という穴から無数の虫が飛び出してきた。
「ぎゃあっ!」
俺たちは各々好き勝手な悲鳴を上げて、慌てて飛びのこうとした。
その俺たちにしなる鞭みたいなものが襲い掛かる。
「トレント!?」
その段になってようやく、生えていた木が植物でなく植物型の魔獣だったことに気が付いた。
「一体だけいる強い魔獣、ってトレントのことだったの!?」
「おい、リズ! この役立たず! トレントがいるなんて聞いてないぞ!」
悔しそうなリズに、ガリオンが怒鳴りつけた。
いや、テイマーの索敵では魔獣がどのくらいいるかぐらいしかわからないんだから、無茶言うなよ。
強いのが一体いる、ってわかるだけでも相当優秀な方だぞ。
「口を動かす前に手を動かせ! モイラとジョーイはガリオンとヨナを援護、切り口を焼くんだ!」
「お前たち、食い尽くせ!」
俺が指示する前にリズはフロックスパロを召喚し、虫を片付けている。
俺とガリオン、ヨナは必死にトレントが伸ばしてくる根を切りつけた。
「怖いことに気がついちゃったんですけど!」
召喚獣に指示を出しつつ、自身も必死に根を退けているリズが叫んだ。
「ゴブリンが弱かったのって、このトレントが寄生樹だからじゃないかしら」
ゾクッと背筋が寒くなる。
寄生樹は、文字通り他の生物に寄生して繁殖する魔獣だ。他の魔獣に寄生することで繁殖地を広げ、また寄生した相手を使って自身の養分を集める。
冒険者ギルドの分類によれば、寄生樹のランクはC。
寄生しての繁殖方法もたちが悪ければ、そのものも強い。
「つまりこいつ、俺たちに寄生する気か!」
ガリオンが絶望的な声を上げた。
「ちょっと! きりがない! このままじゃジリ貧じゃない。やってらんないわよ。一抜けさせてもらうわ」
「え、おい!」
形勢不利を悟ったヨナは、距離を取ってひとり逃げ出した。




