リズの決意
「じゃ、俺らはここでー!」
「もーう、ガリオン。ここじゃだめよ、ふふふ……」
「なんだよ、ヨーナ。嫌じゃないくせに」
あぁ、そういう!
そーゆー!
クッソ羨ましいな、ちっくしょう!
いや羨ましくなんかねえよ。羨ましくなんかないったら……羨ましくなんかないもんね!
ガリオンがヨナにべたべた触れ、ヨナもまんざらでもなさそうにしなだれかかっている。
爆発四散しやがれコンチクショウが。
無性にイラっとして、ふたりっきりの世界を作りながら宿屋に向かう背中に石でも投げてやりたい気分になったが、それをやると自分がみじめになるだけだとぐっとこらえる。
酒飲んでなくてよかった。
酔っていたら実行していた自信がある。
ジョーイとリズは呆れた顔でふたりを見送り、モイラはぼんやり突っ立っているばかりだ。
「それじゃ、明日も教会からの依頼があるし私もここで」
「あ、うん。おやすみ」
「おやすみなさい」
「……おやすみ」
ジョーイとも別れたが、リズとモイラが立ち止まったままなので、俺も立ち去りづらい。
「あのー……」
「アディさん、モイラさん、よかったら私が泊まっている宿でお茶しませんか? すぐそこなんで!」
思い切って自分も宿に戻ると先手を打とうとした矢先、リズに誘われた。
「……ん」
「え、あ、はい」
先にモイラに承諾されてしまったので、俺も断りづらい流れだ。
リズが泊まっているのは従魔も部屋に入れられる宿で、そのため俺が泊まるような安宿とは様子が違っていて興味深い。
べ、べつに、はじめて女の子の部屋に招待されたから興奮してるわけじゃないからな!
「あ、匂います? 他の子たちは召還してるけどティナだけはいつも一緒に居るし、他の子もたまにここで召還してブラッシングとかしてるから、動物の匂いが少しするかも」
「大丈夫だよ」
他の冒険者の連れている従魔の匂いもあるのだろう。
宿自体が厩舎に似た匂いはしなくもないが、リズの部屋が特別匂うということもない。
むしろいい匂いもする気がする、というのは、ここが女の子の部屋だからという気分的なものだろうか。
お客様だから、とベッドに腰かけるようにすすめられ、なんだか落ち着かない。
ここが、リズがいつも寝ているベッドか……。
しかもモイラと並んで座っている。
変なことは断じて考えているつもりはないが、意識してしまう。
あれこれ口にした後の舌に、リズが出してくれたお茶がほっと沁みた。
「あの、入ってきたばかりのアディさんにこんなこと聞かせるのもおかしいんですけど、私『暁の星』抜けようかと思っていて」
しばらくてのひらをお茶で温めていたリズが切り出したのは、自らの進退についてだった。
「え、あ、そうなの……?」
え、何?
俺、別に加入するとか言ってないけど、何でいきなりこんな重い話聞かされてるの?
「……やっぱり」
わかっていた、とばかりにモイラが呟く。
「一番最近入ってニカ月もたってないのに、いきなり抜けるのもどうかと思いますけど、『暁の星』でこれ以上強くなる自信ないんですよね」
はは、とうなだれてリズが無理やり笑う。
「加入するときは、ガリオンさんにも期待しているとか言ってもらえたし、斥候とかポーターとか、お役に立てるつもりだったんですけど全然経験値稼げないし、今日初めてですよ。『暁の星』に入ってレベルアップしたの」
「私も、久しぶりだった。ヨナが入ってからは、初めて、かも」
ぽそぽそ、とモイラがリズに応える。
ヨナも、なのか?
リーダーと関係があることで大きな顔をしているのか、それとも職業的に素早いから有利に働くのか、どうとも言えないけど。
「いつもとどめはガリオンさんかヨナさんが持っていっちゃうし、期待してるんだからもっと強い魔獣と契約しろってプレッシャー掛けられるばっかりで……私自身のレベルが上がらないのに、強い従魔と契約なんてできっこないじゃないですか」
はぁ、とリズは溜息をつく。
「ソロでレベル上げに行こうにも美味しい依頼になると、心配だから協力するとか言ってついてくるから、レベル上げもままならないんですよ。断っても、同じパーティなんだから遠慮するなとか、話にならなくて……」
……あぁ、それ俺もやられた。
親切面して、というか本人は本当に親切のつもりだから、断りにくいんだよな。
「他の人が入ったら少しは変わるかなって期待してたし、戦闘の時はこれなら抜けなくても大丈夫そうだと思ったんですけど、とどめ刺した後のガリオンさんと、打ち上げのヨナさん見てたら駄目そうだな、って」
わかるわかる、って同意してもいいものなんだろうか。
「次回の依頼が終わったら辞めます。お二人には勝手なことを聞かせてすみません」
ぺこ、とリズが頭を下げた。




