〆のスープはしょっぱかった
「新戦力加入を祝ってカンパーイ!」
「「「乾杯!」」」
「……はは、ども」
正規加入を了承した覚えもないのに、まるでそれが決定事項みたいに歓迎されている状況に違和感を覚える。
ガリオンのいつもの手口……というか、こいつ無意識にいつだって自分が望んだようにことが動くと思ってやがるからな。
めんどくせえな、と思いながら俺は果実水で口を湿らせた。
「もう、果実水なんてかわい子ぶっちゃってー。あざといのね、アディ」
親し気な口調でヨナがこき下ろしてくる。
自分に向けられたものでなければ気が付くこともなかっただろうなぁ……と少し遠い目になってしまう。
これが男のままで自分に向けられたものでなかったなら、気さくで距離感の近い女性、という評価だけで終わっていたはずだ。
今でも、女の子は可愛いとは思うけど、女装のおかげで女の子の裏側も知った今、表面上の態度だけがすべてではないのだということを学んでしまった。
こればっかりは知らずにいたかった……。
「今日レベルが上がったの、アディさんのおかげよね」
「アディの指示……やりやすかった……」
リズが嬉しそうに話しかけてくると、モイラがそれに追随して軽く会釈してくる。
お? お?
そう喜ばれると、俺も口出しした甲斐があったかな、って鼻が高いじゃないか。
「私のおかげなんて、そんなことないよ」
ふふふ、と思わず笑み零れてしまった。
戦闘が終わったばかりの時は不満そうだったガリオンも「よかったなー」なんて、暢気に祝福している。
分配金を受け取ったことで一区切りつき、感情がリセットされたんだろう。
こいつはこういうところがある。
引きずらないのは長所だと思うが、だから無神経なのが治らないんだろう。
「そうかしら。でも、おかげでとどめを刺し損ねちゃったわね、ガリオン?」
甘ったるい声音であくまで冗談めかしてヨナがガリオンにしなだれかかる。
ガリオンは同性の俺の目から見てもだらしない顔をして、ヨナの谷間にくぎ付けになっていた。
「あぁ、うん。そう、だな……」
同調はしてるけど、これなんも耳に入ってねーな……。
「いくら仲間内とはいえ、経験値の横取りみたいな真似ってどうかしら」
ヨナは挑発的に、リズ、モイラ、そして俺を見た。
「……普通、支援職には優先的に経験値を回すものだけど」
黙ってしまっているリズとモイラの代わりに、なるべく冷静に俺が言うと、ヨナは馬鹿にしたみたいに口の端を吊り上げる。
「あら。神官のジョーイだってそんなことを言わないのに、剣士のアディがそんなことを言うの?」
まるで俺が経験値の横取りをしているみたいに言われて一瞬カチンときたが、今回俺はむしろ回した方だ。
筋違いにもほどがある。
「自分の技量が足りないからって、優先的に回せなんてそれは個人の努力不足だと思わない? ねえ、ジョーイ」
「あぁ」
同意を求められてジョーイが賛同する。
「個人の技量は、鍛練するなりソロで依頼を受けるなり、努力のしようがあるはずよね」
そういう言い方をするってことは、ジョーイは個人での努力を怠っていないんだろう。
厳格な口ぶりには、努力が足りないものを責め立てるような、取りつく島のない感じがした。
リズが悔しそうに唇を噛み、モイラはつまらなさそうに、顔を背ける。
「私やガリオンみたいな前衛職は経験値を稼ぎやすいもの。一緒にやっていく仲間なら、同じように進んでいけるように手助けするのが当たり前じゃない?」
「ふーん、アディってばイイ子ちゃんなんだ。そういういい子がこれからも一緒にやってくれるなら、リズとモイラも安心だよね。ね?」
ヨナは馬鹿にしたみたいな言葉を吐いたくせに、まるでいいことを言ったみたいにリズとモイラにウインクして、それから話題を変えた。
自分から変な雰囲気にしておいて、ずっとわだかまりを持っている方が心が狭い、とでも言いたげな変貌はいっそ見事なくらいで、思わず感心してしまう。
今回、俺はジョーイにも経験値が行くように動いていたのに、そのジョーイを味方に取り込む手管がすごい。
しかも、俺に嫌味を言いつつ、まるで今後も一緒に活動するのが当たり前みたいな空気に持っていったのがまた……。
結局また一緒に依頼を受ける約束をしてしまって、うんざりしつつ、締めにスープを頼む。
あー、なに言質とられてんだ俺。
「スープ、ガリオンも飲むだろ?」
「あ、あぁ。気が利くな!」
つい、昔からの調子でガリオンに確認してしまったが、ガリオンは何の疑問もなく嬉しそうに応えてきた。
……しまった。
今の俺は『アディ』じゃなくて『アディちゃん』だろ。
こういうとこからバレたらどうすんだ。
「の、飲んだ後はあったかいもの欲しくなるもんねぇ♪」
誰にともなくごまかすみたいにかわい子ぶってみたけど、ほんと誰に対してかわい子ぶってんだ、俺。
……むなしい。




