本当に復讐したいやつ
「ガリオン……!?」
思わず声に出してしまって、慌てて自分の口をふさいで物陰に隠れた。
距離もあったし、聞こえたわけはないんだけど。
……って、別にやましいこともないのに、なんで俺は隠れてるんだ。
ガリオンはどうやらリディと言い争っているようだった。
ガシガシと頭を掻くのはあいつがイラついている時の癖だ。
リディの身振り手振りもだんだんと大きくなっていく。
「……っ! 女のくせに生意気なんだよ!」
ガリオンが大きな声で叫んだせいで、それだけははっきり聞こえてきた。
リディが何かを投げ捨てるような動作をして、それからガリオンに何かを投げつけ、くるりと踵を返してこちらに来る。
あ、やべえ。見つかる。
俺は咄嗟に取り出したマントをかぶり、顔を見られないように俯いた。
リディは憤然とした様子で、足音も荒く俺の前を通り過ぎていく。
取り残されたガリオンは、リディに投げつけられたものを地面にたたきつけ、それからわーっと頭を掻きむしってしゃがみ込んだ。
俺が脱退してすぐに、あいつらが全体のレベルアップのためスターカから別の町へと拠点を移したのは知っていた。
でも、あいつらがレベルを上げるのには、ここコルネッタはあまりにも向いていない。
コルネッタは、一撃の攻撃力が大きい者を中心としている一強型か、もしくは支援職中心のパーティ向けの地域だ。
俺みたいにソロで底力を上げよう、みたいな目的がなければ、ひたすらに儲けが薄いばかりとなる。
間違っても『暁の星』みたいな、手数の多さで戦うようなパーティだと実入りが少なすぎるのだ。
我先に攻撃したがる奴ばかりのパーティじゃ、あっという間に素材はぼろぼろ。防御力の高い敵相手では削るようにしか倒せず、素早い敵相手に軽傷を負わされてばかりでは、ポーション代もばかにならないし、軽傷にも回復を掛け続けられるような、魔力オバケはそうはいない。かといって特出して【VIT】に優れたヤツもいなかったから、集中してヘイトを集めるという作戦も取れないだろう。
それとも、俺が抜けた後に、そのあたりを埋められる人材が加入したんだろうか。
「いったい、あいつらに何があったんだ?」
気にはなるけど、話しかけたくない。
一応話し合って脱退はしたものの、正直奴らにはどうしようもないわだかまりが残ってるんだよ。
顔を合わせたらどうしたって責めたくなる。
なぁ、俺も甘かったかもしれないけど、お前たちももう少し俺に気遣ったって良かったんじゃないのか、と。
スターカの町で、イーサンやその他の連中からは、俺が納得できるくらい毟ってやった。
だけど、俺が本当に復讐したかった相手は誰だ?
一番俺を適当に扱い続けて、挙句、軽く捨てやがったのはどこのどいつだ。
ガキの頃から、重たい物や隠したい物を持たせるのに利用し、便利な従者扱いをしてくれたのは、誰だ。
ずっと一緒にやってきたのに、紙くずみたいに切り捨てやがったのは誰だ。
あぁ、俺が一番ムカついてる相手はイーサンなんかじゃない。
ガリオン、貴様だ。
「俺、インベントリ持ちでよかったよ」
おかげで普段は使わない装備を保持しておけるし、それらを取り出すのだって一瞬だ。
あの頃の俺には自信がなかった。
足手まといの俺が切り捨てられるのは当然だと諦めてしまえた。
だけど、本当は、あいつらのことを責めたかったんじゃないのか。
俺が『暁の星』を脱退してから、約半年。
半年の間に『暁の星』で一番レベルが高かったカスハと同じ、レベル34にまでレベルを上げた。
別に活動している間に、あいつらだってレベルを上げてはいるだろうけど、ロージィのレベルは確か24だった。
俺はこの半年でレベルを20上げたけど、女性陣が多く、誰かひとりを優先して育ててもらえるわけでもない『暁の星』で、10もレベルを上げられたとは思えない。
いばれた話じゃないけど、ついこの間まで『アディちゃん』は、鼻の下を伸ばした男どものおかげで、お姫様みたいに大事にしてもらってレベルを上げられたからな。
レベルだけを上げたわけじゃなく、ソロ活動で自分なりの戦い方も覚えた。
攻撃手段も増えたし、場数も踏んだ今なら、みすみす経験値を横取りさせない自信だって付いたさ。
俺はいつもの鬘をかぶってから、スザンナ特製コンパクトを取り出すと、中央の魔石を叩いた。
まずは『アディちゃん』として連中に近づき、情報収集をしよう。
それから、じっくりじわじわと復讐をしてくれる。
んなぁあはっはっはっはっはっはっは……。
見てろよ。俺はもう、お前たちと袂を分かった頃の俺じゃない!




