プロポーズもどきはやめてくれ
「ごめんなさい、正式加入するとなると長期依頼とかもあるでしょう? やっぱり、女の子がいるパーティに入りたいの」
正規に『青銀の稲妻』に入る気はないんだよなぁ……。
長期の依頼だとボロも出やすくなるし、皆が競うようにとどめを譲ってくれるから、レベルだけはガンガン上がっていくけど、それだけで、実力としては身につかないどころか、弱くなっていく気がする。
ずっと冒険者としてやっていきたいなら、レベルを上げるだけじゃダメだよな、やっぱ。
「……だよなぁ」
俺が断るのはわかっていた、と言いたそうに、ランドルフが頭をガシガシと掻いた。
「女の子が別に入ればいいんだろ? それならアディちゃんが入ってから募集を掛けるって手も……」
「そうですよ。他の女性だってアディさんときっと同じような考えを持っているはずです。ですから、まずはアディさんが加入すればいいのでは?」
縋るみたいにイーサンとブルックが言い募る。
正式加入を断る理由はもうひとつ、ブルックの貢ぎ癖だ。
イーサン以外にも俺のことを利用して当たり前みたいな面をしてた連中はいて、そういう連中からも経験値やレアアイテムを貢がせてやったりはしたんだけど、『青銀の稲妻』のメンバーからは、別にポーター扱いされたことはない。
だから、イーサン以外は、復讐というよりとばっちりだ。
それでも、どうせお前らだって、みたいな気持ちはあって、最初の内は騙されやがって、っていい気分だったんだけど、だんだん後ろめたくなってきた。
そもそも『青銀の稲妻』の他のメンバーからアレコレしてもらうつもりは特になかったんだけど、イーサンからの貢物を当たり前に受け取っていたのに影響されたのか、ランドルフやブルックまで俺を優先するようになっちゃったんだよな。
「あ、そうだ。アディさん。よかったら、これ受け取ってください。その、大したものじゃないんですけど、アディさんに似合いそうだと思って」
悩んでる傍から、ブルックが小箱を差し出してくる。
その小箱は丁寧に包装されていて、普段気軽にやり取りするようなものとは一線を画した気配を放っている。
うぉー、とうとうお高そうな店で売ってるものを買ってくるようになっちゃったか。
「え、なんだろ」
とりあえず開けてみると洒落た髪飾りだった。
紫の大きな石を使った銀細工だ。
銀はブルックの髪の色、紫はブルックの瞳の色。
……ここまできたかぁ。
テーブルの上を奇妙な沈黙が支配する。
「……さすがにこれは受け取れないよ、ごめんね」
そっとブルックの方に押し戻すと、ほうっとランドルフとイーサンが息を吐いた。
自分の色のアクセサリーを贈る、っていうのは、貴族階級なら、求婚を意味する贈り物で、そのぐらいのことは平民だって知ってるし、それに憧れて真似事をするやつもいる。
その時に贈られるのは、だいたいネックレス、イヤリング、指輪の三点セットらしい、というのは、『暁の星』の女性陣がしていた雑談から知ったことだ。
そこを髪飾りで、っていうのがブルックの姑息なところなんだよなー。
髪飾りなら、断られたところで『そんなつもりはなかった』と言い逃れられるし、上手くすればそのままプロポーズに持ち込める。受け取っただけでもイーサンやランドルフに対する牽制になるだろう、そんな打算が透かし見える。
こういう奴だから、貢がれてもあんまり罪悪感を感じなかったわけだけど。
「別に深い意味はないんですよ。ただ似合いそうだと思っただけで」
ドロップアイテムならいざ知らず、店で買ったお高そうなアクセサリーなんて受け取れるか馬鹿!
さらに押し付けてこようとするのを、首を振って断り、ランドルフに視線で助けを求める。
ランドルフは軽く手で制しながらブルックを窘めた。
「それじゃ、金でアディを買おうとしてるみたいだろ。やめておこうぜ」
「……そんなつもりはないのですが」
ブルックが渋々と押し切ろうとした手を引っ込めた。
よく言うわ。
いいからさっさと箱も引っ込めろよー。
ブルックってさ、本当、こういうとこあるんだよな。
色々といいものを融通してくれるし、アイテムに付与魔法とかもすすんでやってくれるんだけど、言動のどこかに『これだけしてやってるんだからあわよくば』っていうのが滲んでいる。
そして、ブルックの貢ぎ癖に触発されて、イーサンから渡されるものもエスカレートしてきてて、ランドルフも張りあっちゃうものだから――さっき見かけた男女のやり取りが笑えない。
多分だけど、ブルックは実家が太いんだろうな、って気配がする。そのブルックと組んでるんだから、ランドルフの方もそこそこ小金を持ってるんだろう。
『俺』を利用し、たかってきたようなイーサンが、その二人に張り合えるはずがない。
下手をしたら『アディちゃん』に見栄を張るために、それこそ借金をしてでもプレゼントをしようとするのは、そう遠くない話だろう。
いくら復讐をしたかったって言っても、そこまで憎いわけじゃない。
あいかわらずメルロさんをはじめとしたギルド職員の人たちは何も言わないけど、そろそろ潮時かな、って気はしてるんだよ。
「ご注文はお決まりですか?」
微妙な空気を察したのか、気まずげにウエイトレスさんが注文を取りに来た。
「あ、注文もしないですみません」
慌ててランドルフがメニューを広げる。
注文がまだだったしちょうどいいや、逃げるか。
「みんなが優しくしてくれるから、私も甘えすぎちゃった。暫くは真面目に入れてくれるパーティを探すね」
俺が席を立つと、慌てたみたいにベンが追いかけてきた。
「あの……! さっきはブルックに先を越されちゃって、それにこんなつまらないものはいらないかもしれないけど! 全然、さっきの後だとみすぼらしいっていうか! けど、これが僕にできる精いっぱいで……」
ベンが自信なさそうに差し出してきたのは、木彫りの素朴なチャームだ。
「ううん、ありがとう。嬉しいよ。ありがとうね、ベン」
俺はベンが決死の覚悟ってな表情を浮かべて差し出したそれを笑顔で受け取った。
ほっとしたのか、ベンが真っ赤な顔でへにゃりと笑う。
あぁ、ごめん。
俺はずっとお前のことも騙していたんだ。
もう潮時だ。
ここで『アディちゃん』は消そう。
店じまいだ。
……これ、俺が実は男だってばれたらどーなんのかな。




