開幕修羅場でござる
「俺はあんなに君に尽くしたじゃないか! 君のためにドレスも贈った! 宝石も贈った! デートの時には高級レストランに予約を入れて、馬鹿みたいに高いワインを抜いた! 実家が困っていると言えば小切手も切ったし、現金も貸した! なのに、なんで浮気なんて……!」
「はぁ? 何勘違いしてんの? このあたしがあんたごときに付き合ってやったでしょ? その代金には足りないぐらいだわ。しかも借金持ちだなんて汚らわしい。二度と近づかないで!」
「その借金だって君のために……!」
振り払われた男はべちゃりと崩れ落ちて呻いている。
俺はそっと目を逸らして、足早に立ち去った。
「……すごい女だな」
「いくら顔が可愛くても、あぁいうのはちょっと」
ランドルフとブルックが顔を顰めている。
「可愛いって言ったって、ただのケバい女だったじゃないか。あーいうのは見抜けない男も悪いんだよ。見る目がないんだ。ほんと、アディちゃんとは大違いだな。アディちゃんみたいに可愛い女の子に貢ぐんならわかるけど」
……あの男もお前に見る目がないとか言われたくないと思うぞ、イーサン。
「誰だって好きになった相手のことが一番よく見えると思うよ? あの人には彼女が一番可愛かったんじゃないかな。実際すごく可愛い人だったし」
唸る小型犬みたいなものすごい表情をしていたことはこの際置いておく。
見た目だけで言うなら、俺と彼女を比べたら、10人中8人は彼女のほうが可愛いというんじゃないだろうか。
……それに、男を騙しているという意味でなら、俺だって一緒だし。
「ぼ、ボクはっ……! アディさんの方が、ずっとかわいいと、誰よりもかわいいとっ、おもいまひゅっ……」
あ、噛んだ。
ベンの赤くなっていた顔がますます赤くなる。
「ありがとう、ベン」
にこっと微笑みかけてやると、もうゆで上がったみたいな顔でものも言えなくなったベンは、こくこくと高速で首を縦に振った。
「そのペンダント、すごく似合うな」
ふと気が付いた様子でランドルフが言う。
「ありがとう、これミスカのダンジョンで出たんですって。ブルックがくれたのよ。守護の魔法が掛けてあるの。付与魔法も使えるなんて、ブルックはすごいよね」
俺に褒められたブルックが自慢げにメンバーを見やった。
「っち……」
悔しそうにイーサンが舌打ちをする。ランドルフもどこか面白くなさそうだ。
このメンバーは時々臨時パーティを組んでいる『青銀の稲妻』の面々だ。
『青銀の稲妻』は速攻型の魔法剣士ランドルフ、大型魔法を好む後衛型魔術師ブルック、タンクの剣士イーサン、すばしっこいポーターのベンで構成されている。
元々、俺が女装した『アディちゃん』とよく組んでいたのはイーサンで、臨時パーティを組む以外はずっとソロでやってきたのだが、少人数ではできることにも限りがある。
ぶっちゃけ、俺がレベル28を超えたあたりから、いくらとどめを譲ってもらったところでレベルの上りが悪くなってきたのだ。
そこで「これからはちゃんとイーサンに頼らずに頑張るね」と、もう組まないことを示唆したところ、奴は頭を下げて『青銀の稲妻』に入れてもらった。
『青銀の稲妻』はふたりだけでもバランスの取れたパーティだったし、そこにポーターのベンがいればイーサンが入る必要はなかったのだけど、ランドルフは基本的にさっぱりしたイイ奴で、ソロでやっていくのも大変だろうから、とイーサンを入れてくれたのだそうだ。
それで、時々俺もそこに加えてもらい、大型の依頼を受けている。
「ほら、ここだよ。酒場の女の子に教えてもらった店」
自慢げにランドルフがカフェを指さす。
「わぁ、素敵なお店」
「だろ?」
喜んでみせると、ランドルフは嬉しそうに口元に手をやった。
へえ、こんなところができたのか。
アリスが喜びそうな店だな。
けど、酒場の女の子に教えてもらった、とか正直に言っちゃダメだろ、ランドルフ。
「こちらのお席にどうぞ」
案内してもらったのは、店の奥の方の丸いテーブル席だ。
何が悲しくて野郎5人(うち女装ひとり)でこんな店に来てるんだよ、とは思うけど、こいつらにしてみたら『可愛い女の子とのデート』なんだよな。
うわ、俺が泣きそう。
「ここ、ケーキが美味しいんだって」
「へぇ、何にしようかな」
ケーキより、肉喰いたいとか言っちゃダメなんだろうな……。
いいけど。別にケーキも嫌いじゃないし。
「あのさ、アディ。話があるんだけど」
「ん、なぁに?」
こういう時の話って、頼んだものが届いてからするもんじゃねえのかな。
まぁ、いいけど。
「よかったら、俺たちのパーティに入らないか?」
……あー、やっぱその話かぁ。




