鼻の下が伸びている
「君、見ない顔だね。このギルドは初めて?」
げ、イーサン。
後ろから見ていたから、俺だとは気づかずに声を掛けてきたのか。
「そこの掲示を見ていたってことは、F級かな? よければ俺が色々とこのギルドや周辺のことを教えてあげるよ」
親し気に肩へ手を掛けられた。
顔を見られまいと伏せていたけど、ちらりと見ると、やけに得意げな表情をしている。
え、まだわかってないのか?
小鼻が膨らんで鼻息が荒くて気持ち悪い。
「ね、君。名前は?」
この距離で見ても分からないのか……。
スザンナの化粧は凄いな。
「俺はイーサン。18歳だよ。D級冒険者なんだ。といっても、D級には上がったばかりだけどね。だから、F級だからと言って遠慮することはないよ。まずは名前を教えてよ」
「あ……アディ」
押しの強さに負けて思わず名乗ってしまったけど、さすがにこれで気づいただろ?
どんな罵声、嘲笑が飛んでくるか……。
下を向いて体を固くしていると、イーサンは朗らかな声を上げた。
「そっか。アディか。親しみやすくていい名前だね」
……ん? まだ気がつかない?
「ねえアディ、依頼を探していたところかな? どの依頼を受けようとしてたんだい? 良ければ、僕が力になるよ!」
うえっ。僕とか言って気取ってるよ、気持ち悪い。
そうか、アディは男でも女でもよくつかわれる名前だから、同名の別人だと思いこんでるのか。
ここまでバレてないなら、揶揄ってやれ!
「フェザーラビットのぉ依頼を受けようかと……でもぉ、ひとりでは難しそうだからぁ……」
裏声、変じゃない?
アリスの喋り方と発声を真似てみたけど、我ながら気持ち悪いなコレ。
精神的なものもそうだけど、眉間から鼻筋に変な振動が伝わってくる。
やめよう。
「フェザーラビットの!? え、でも、フェザーラビットはF級にはちょっと難しいよ。今レベルは?」
「あ、E級……レベルは一応……22……?」
さすがにランクとレベルでバレるかなー、と思いながら答えると、イーサンは嬉々としてフェザーラビットの依頼書を剥がした。
「それなら大丈夫かな? じゃあ、ふたりで受注しよう! 俺今レベル32だけど、ちょうどいいよね。決まり! さ、受付に行こうか」
手を差し出されたけど、気が付かなかった振りをする。
手なんか繋いでたまるか。
ほんとアホだな、こいつ。
全然気がつく様子もないよ。
受付でネタばらしするかー……。
「それでは、ギルドカードをお預かりします」
イーサンが選んだ受付窓口はメルロさんだ。
むしろ兎系魔獣だから狙ってメルロさんを選んだ節がある。
そう言うところが、本当にゲスだ。
メルロさんが格好のことで突っ込んできたら、イーサンを笑ってやって、一緒に依頼なんて受けないと断ろう。
メルロさんは、依頼書を見ても、受け取ったギルドカードを確認しても、まったく眉ひとつ動かさず……え?
「フェザーラビット3匹討伐。D級冒険者イーサン、E級冒険者アディ、連名での受注で間違いないですね?」
「あぁ、間違いない!!」
メルロさんは冒険者来歴を確認しているわけだから、気がついていない、なんてことはないよね?
「受注完了! 頑張ろうね、アディちゃん!」
馴れ馴れしく頭に触るな。
さりげないスキンシップのつもりなのか、ことあるごとにぺったぺった触ってくるのは何なんだ。
前に組んだ時もやたらに肩を組んだりして来てたけど、頻度はその時以上で、しかも妙な目つきをしているから、不快さが以前肩を組まれた時の比じゃない。
そして、俺はネタばらしをするタイミングを掴み損ねたまま、フェザーラビット討伐に向かうことになったのだった。




