ドキドキ女装チャレンジ
「うわっ、誰これ!」
エリーさんたちが買ってきた服に着替えて、鏡を見せられた俺は思わず声を上げた。
鏡に映っていたのは、おしゃれしてるけど、剣士としても頑張っていそうな、そこそこの装備の女の子だ。
鏡を見せられた時、不覚にも可愛いと思ってしまった。
それも、めちゃくちゃ可愛い! っていうんじゃなくて、自分だけが良さをわかってあげられるんじゃないかって感じの、純朴そうな、笑顔にしてあげたくなるような、女の子。
よくよく見ると、俺の要素はそこかしこに残ってはいるんだけど、元の青銅と似た髪色とは違う艶のある黒の鬘を被せられたのもあって、親戚にしても遠そう。
……これは魔法かと思うわ。
途中塗りつけられたはずの、青とか緑とか茶の塗料はどこに行ったんだ。
そしてあれだけ塗ったり、はたいたり、書き込んだりしたのに、ちょっぴり背伸びしてお化粧で整えてみました、みたいな、薄化粧風に見えるのはなんでなんだ……。
女って怖い。
もはやなにも信じられなくなりそう。
「いかがでしょうエリー様」
「さすがね、スザンナ」
「アディちゃん、アリスの次にぃ可愛いわぁ~」
スザンナは自慢げだし、エリーさんもアリスも感心しきりだ。
多分アリスのは最上級の賛辞だろう。
「黒い鬘だと、清楚に見えていいわね。それに黒髪は私ともお揃いで姉妹の様ではなくって?」
いや、それは無理があると思います。
どっちかというとエリーさんは妖艶だし、今の俺は可愛いけど、どう頑張っても村で一番可愛いぐらいで、町まで出ればまぁ可愛い方、王都まで出てきてしまえばその辺を歩いてそう、ってあたりのレベルだと思います!
「それじゃ行きましょうか」
「え、どこに?」
「ギルドよ」
「えぇ! 嫌ですよ!」
何でこの格好でそんなところに行かなきゃいけないんだよ。
女装してるところを見られたら、馬鹿にされるじゃないか。
エリーさんほど美しいとか、アリスやスザンナのように有無を言わせないだけの実力者なら、どんな誹謗中傷もねじ伏せられるだろうけど、俺だよ?
剣士まがいのポーターとか、よく知らないやつにまで陰口を叩かれるような俺が、女装なんて奇異な格好を晒していた日には、どれだけ笑われることか……。
笑われるだけならいざ知らず、変態扱いされるかもしれないし……。
「あら、それだけの変身よ? どのぐらいの人が気づくか試したくならない?」
「うっ……それは……」
「バレたら、私たちとの打ち上げで悪のりしてオモチャにされたって、正直に話せばいいのよ」
それもそれで馬鹿にするネタにされそうではあるけど……これだけよくできた変身を俺たちだけしか見ない、っていうのももったいない気はする。
それにわざわざこのために買ってきた服や装備を、このまままた売るっていうのも……どうせなら、親切にしてくれるギルドの職員さんあたりには笑いと驚きを提供してからでもいいかな。
「……じゃあ、ちょっと顔出してひと笑いウケを狙ってきます」
「私たちが出発するのは明朝になるからそれまではこの宿にいるわ。帰ってきたら、どうだったか感想を聞かせてね」
「そんなに遅くはならないと思いますよ?」
ちょっと知り合いと話したらすぐ戻ってくるつもりだし。
「焦らなくても大丈夫ってこと。いつもの自分とは違う自分を楽しんでいらっしゃいな。自分から解放されるっていいものよ? 装備は全部上げるから、その格好で依頼を受けてきてもいいわ」
ぱちん、とエリーさんはウィンクをして俺の背中を押した。
俺は、緊張で冷や汗をかきつつも、ちょっとドキドキしながらギルドへと向かって歩く。
うひー、そんなはずはないけど、道行く人がみんなこっちを見て指さして笑ってる気がする。
鏡に映った自分が可愛い女の子に見えたのは錯覚で、実は俺は俺のまま女の子の格好をしている変な奴、ってことはない?
歩くってどうすんだっけ?
女の子っぽく歩いた方がいいのかな?
歩くのに女の子っぽいってなんだ?
それともウケを取るなら、いつも以上に男らしく歩いた方がいいのかな。
男らしく歩く、ってなんだ。
肩で風切って周囲を威嚇しながら歩けばいいのか?
いろいろ考えたけど、結局これといって何もしないまま、むしろ体をちぢこめて、こそこそとギルドに入る。
ふへぇ、変な汗が出てきた。
とりあえず、手が空いてそうなら依頼受付のミルロさん辺りに話しかけてみようかな。
いや、今受付対応してるな。
え、マジに話しかけちゃう?
そもそもなんて言って話し掛けたらいいんだろ。
ちらちらと受付を観察しつつ、俺は依頼の掲示を眺めているふりをした。
ミルロさんは可愛らしい兎獣人だ。
かなり兎の特徴を残しているため表情は読みにくいが、仕草に愛嬌があって、丁寧な応対をしてくれるため、冒険者たちからの人気が高い。
かなりのベテランらしいけど、獣人冒険者によれば童顔ですぐにおろおろするところが見ていて微笑ましいのだそうだ。
俺からすると、落ち着いていて優しいお姉さんにしか見えないんだけど。
あ、フェザーラビットの討伐依頼が出てる……。
フェザーラビットは、ホーンラビットの上位種で、毛皮も取れるし、羽根も装飾品としてよく使われる。
3匹か……討伐報奨が一匹銀貨7枚。ひとりでだとちょっと難しいけど、3人以上のパーティじゃ赤字になりかねない微妙なラインだ。素材が高く売れればそこそこの儲けにはなるものの、動きが素早くて傷つけずに倒すのが難しいんだよな。
楽に狩れるような腕の冒険者なら、もっと儲かる獲物がいるから、この依頼書が残ったのか。
うーん、どうしよう。
今の俺ならなんとかいけるけど、無傷では片付かなそうだ。
……って、この格好で本当に依頼受ける気かよ。
それに、兎獣人と兎系魔獣は違うものだとはわかってるけど、ミルロさんに兎系魔獣の討伐依頼は出しにくいんだよな……たんに気分の問題なんだけど。
女装さえしてなかったら、この依頼を受けたいのはやまやまなんだけど……。
依頼を掲示している壁の前で考えこんでいると、後ろから声が掛けられた。
「君、見ない顔だね。このギルドは初めて?」




