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経験値横取りにキレた俺は女装で無双する  作者: 白生荼汰
第一章 すみません甘えてました

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スザンナの過去

「上の方を見ていてください。じっとして、瞬きは我慢して」


 我慢して、と言われるほど気になるのが人のサガだ。

 ぐぬぬぬ……目、目が乾く……。


「今度は濃い色で影を入れていきますよ。くひひひひ……思った通り、陰影のつけやすい顔ですねえ」


 スザンナが俺の顔にパタパタと粉をはたきつけていく。

 濃い色、と言われたが、俺の目にはさっきはたきつけられた別の粉とどう違うのかよくわからない。

 何をされているのかさっぱりだけど、やたらに手間がかかっている。

 なるほど、毎朝こんなことをしていたのなら、女の身支度に時間がかかるのもよくわかる。


「アンバーローズの方がいいでしょうか、もっと明るいピンクの方が顔色よく見えますかねえ。流行を抑えるならマットに仕上げた方がいいのでしょうが、アディの顔立ちと年齢を生かすなら艶感を大事にしたい……リップは絶対つやつやのベイビーピンクに決めているんですが」


 さっきからぶつぶつとスザンナが何事かを唱えている。

 俺の顔を媒介に何かエライものを召還する気じゃないだろうな……。


 打ち上げの翌日、スザンナに言われて、朝から俺は化粧をされていた。

 顔だけ貸して、ちゃちゃっとおしろいに口紅を塗りたくられるのかと思ったら、床屋みたいに肩へタオルを掛けられ、前掛けをされて、髪は全部後ろに撫でつけられて、ぺったぺったと薬品を塗られた。

 あとはもう左官工事だ。

 顔面に壁を作られてるのかと思った。

 下地材を塗り、目止めをして、その上から色のついた粉をまぶす。

 左官工事でなかったら、料理の下ごしらえ。

 合間合間におかしな色も塗りたくられているから、この化粧が終わった後、どんな顔になっているのか、鏡を見るのが楽しみだ。

 見世物小屋の口上男みたいな模様になってたりするのかな。


「スザンナは一体何がきっかけで女装するようになったんだ?」


 じっと座っているのも退屈で、ふと聞いてみた。


「女装ですか? あぁ、エル……エリー様とアリスがあぁでしょう。私だけ何もしないというのも何なので、一応スカートを穿いて、口紅をして……さすがに恥ずかしかったので色眼鏡を掛けて顔を隠しているのはちょっとした悪あがきですねえ」

「え、自分の化粧はそれだけ?」


 女装は付き合いで全員の趣味じゃなかったのか……。

 でも、その丸眼鏡のチョイスはどうだろう。

 怪しさを増す結果にしかなってないぞ。


「えぇ、何せこの御面相でしょう? 何をしても徒労でしかないですからねえ。面白さのインパクトではアリスがいれば充分ですし」

「スザンナも、あれ面白いと思ってたんだ……」


 エリーさんとアリスは俺の服と装備を選びに行っている。

 ……そこまでさせられるのか。


「でも、化粧は趣味? なんだろ? やっぱりエリーさんのために学んだの?」

「エリー様は、あれは元がいいんですよ。私が化粧をさせてもらってますけど、それほど腕の振るい甲斐はありませんねえ。はい、今度は下を見て。膝のあたりを見ていてください」

「え、こわいこわい。何その尖ったの。なんで目に近づけるの!?」

「上まぶたにラインをつけたすんです。別に痛くはないですよ。色を乗せるだけですから」


 こっわ……!

 スザンナはぐりぐりとまつ毛の間に突き刺すみたいにペンのようなものを擦りつけて、何度か目の際をなぞった。

 どういう儀式なんだ、これ。


「ハニートラップです」

「え?」


 溜息を吐きながら、スザンナは目にグリグリしていたペンを片付けて、ちいさいハサミみたいなものを取り出した。


「30歳まで童貞だと魔法使いになれる、って俗説知ってます?」

「え、あ、あぁ……」


 モテない奴の揶揄い口上とか、誰かが自虐的に言うので聞いたことがある。


「え、じゃあ……」

「そんなはずはないでしょう!」


 聞く前に強く否定された。


「私はこれでも閨教育を受けるような立場だったので、そうそうにそんな資格はなくなりました。それに魔法使いになるのがそんなバカげた条件なら、魔法使いを使えるやつは皆ブサイクだってことになるでしょうに。魔法使いの血脈なんて続きませんよ」

「……そうですね」


 ハサミもまた目に近づけられて怖いんだけど、逆らえる雰囲気じゃなくて、俺は膝に落した視線を必死に動かさないように努力した。ハサミには刃はついていなくて、挟んだまつ毛を上向きに引っ張られる


「いててててて……」


 え、何してんの? まつ毛引っこ抜く拷問?


「……でも、そういう馬鹿なことを信じる馬鹿っていうのはいましてね。そういう連中は私が未使用だと頑なに信じたかったようです。それで、魔術師として秘密研究をしていた私に女を近づけて、研究を奪うと同時に魔法使いとしての力も奪おうとしたようです」

「……それはなんというか」

「まぁ、あの頃は私も若かったので、女の手練手管に引っかかったわけですが……その女と床を共にした翌朝、驚きました。花の妖精と見まがうばかりの可憐な女と床を共にしたはずが、掘り出したばかりの芋が横で寝ていたのですから」


 枯れ木の妖精の横に芋の妖精か……。

 霊験はあらたかな感じがするけど。


「それはやっぱり魔法で?」

「私も魔法を疑いました。容姿を変える魔法は希少ですが、ないわけではないので。……ですが、それは魔法ではありませんでした。恥じらいながら起きてきた女が鏡に向かって、しばらくして振り返ると、昨日の妖精がいたのですから」


 そいつは強烈な体験だっただろうな。


「……化粧が上手いだけなら、健気だとも思えたんですけどねえ。結局彼女は化粧と同じくらい、態度や行動を装うのも上手い人で、私と敵対していた派閥からの刺客でした。もっとも私も最初から薄々は疑っていて、差し出されたものなら遊んでやろうと関係を持ったもので、さしたる被害にはなりませんでしたが……あの朝は強烈でしたねえ……」


 えらく生々しい話だな。

 朝から聞くのには胃もたれ起こしそう。


「ただ、あれがきっかけで化粧に興味を持つようになって、それでエリー様にお仕えするようになってから役立つのだから、人生何が幸いするのかはわかりませんねえ」


 しみじみとスザンナは呟いた。


「そういうわけで、私は女装趣味でも未使用でもないですよ」

「あ、はい」


 念を押したかったのはそこなのか。

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