009 無職もツラいんだね
「ええええええええええええええっ⁉ それは本当かい、アラトくん‼」
一番街住宅エリアの白い鋼材で建設された一軒家――いわゆる自宅。
帰って、早々、リーンさんは驚いたように声をあげた。
「突然過ぎないッ⁉ 夢ッ⁉ それとも漫画かいッ⁉ そのくらい突拍子もないよ‼」
「俺もそう思います」
俺はゲルブから渡された髪をリーンに渡す。
「紙? 電子の時代にこんなものを使うってことは……もしかしてー?」
リーンはじろじろを読み進める。
「防衛審議官、防衛事務次官、その他諸々……の署名がされてる。どんだけアラトくんを辞めさせたいんだい、この連中は」
リーンは呆れて肩をすくめた。
「って、よく考えたら署名してる連中、レンジャーの経費削減案を提案したヤツじゃないかい。アラトくん、嫌われたねぇ」
「すいません」
「あんな自分のことしか考えない連中には、嫌われた方がいいよ。でも、どうしたものかなー」
これでいてリーンはレンジャーの中ではかなり高い地位にいる。
詳しいことは教えてもらえてないが。
「ボクの権限で、アラトくんの解雇をなかったことにする――ってのは不可能じゃない。多少の時間は必要だけどね。けれど、まずは君に一つだけ確認しておきたいことがあるよ」
「なんでしょうか?」
「アラトくんはレンジャーを続けたいかい?」
はい――とは頷けなかった。
何故だ? 何故、舌が動かない?
「まずはボクの視点から言わせてもらうね。ボクとしては、可愛い息子にこれ以上、危険なレンジャーという仕事はして欲しくないんだ。もし君が死んだりしたら、ボクは生きていけない」
リーンの瞳が濡れていた。
俺の死を怖がっている。それほど心配してくれているのだ。
「そして次は――最近のアラトくんは、とっても疲れている。がむしゃらに頑張っているけど、助けれなかった人達の重圧に押しつぶされてるよ」
言い返せない。すべて事実だ。
俺はリーンと顔を合わせれず、俯いた。
「君がこれからもレンジャーとして頑張りたいというならさ、ボクも応援せざるを得ない。けどさ――少し、休まないかい?」
リーンは俺の両肩に手を乗せる。
「君は頑張り過ぎたんだよ。しばらく働かなくたって、誰も責めたりしない」
リーンは俺のことをしっかりと見てくれている。それゆえに誰よりも優しい。
そして――その優しさがツラかった。
「あの……リーンさん、この話はこの辺で終わりにしませんか?」
「そうだね。辛気臭い話はボクも苦手だし後日にしよう」
リーンは、俺の肩から手を放すと、にこっと笑う。
「可愛い息子なんだから、ボクにずっと甘えてくれてもいいよ? ボクが死ぬまで食っちゃ寝生活をおくらないかい? 一生、養ってあげるよ?」
「さすがにそれは申し訳ないですよ。働かないと良心の呵責の押しつぶされます」
「そ、そうかい? 無職もツラいんだね」
レンジャーになる前は、無職で時間を余らせていた。
無限の時間は怖い。自分が腐っていくのがわかるのに、やることがない。
あれは無職が得る恐怖だ。
「可愛い子を養いたいというボクの欲求は満たされないのかい。むー」
ぷーっと頬を膨らませても、俺は無職になるつもりはないですよ。
というか、そんな可愛い素振りしてますけど、貴女は20以上、年上でしたよね……?
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無職時代は怖かったです(実体験)
★★★★★