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白と黒と黄

作者: オパビニア


 目を覚ますと、視界は一面真っ白だった。


 むくりと身体を起こし、辺りを見回すが、一面、やはり真っ白だった。


「目が覚めたか。」

「ヒッ!」


 背後から唐突に湧いたバリトンボイスに驚き、叫ぶと同時に振り返る。いかにも"雄"といった風貌の色男が、壁に背を預け、立っていた。


「すまない。驚かせてしまったようだ。」

「本当に。一度はたいても良いかしら。」

「好きにしてくれ。」


 彼の潔さに免じ、私は振り上げた拳をゆっくりと仕舞う。


「……ところで、ここは一体どこ?貴方は誰?」


 矢継ぎ早に現状の疑問を投げつける。

 彼はふう、と一呼吸置いてから質問に答えた。


「ここがどこかは分からない。俺のことは……そうだな、ジョージ、とでも呼んでくれ。皆はその名で俺を呼ぶ。」

「そう。あ、私はエミリーで良いわよ、ジョージ。」

「エミリー、良い名だな。」

「ありがとう。ジョージもね。」


 自己紹介が済んだところで改めて周囲を見回すが、見れば見るほど、明らかに異様だ。白い天井、白い壁、白い床。外に通じる扉もない。

 私たちは一体どうやってここに入ったのだろう?――或いはこの部屋の方が後から作られた?


「気付いたようだな。この状況のおかしさに。」

「それはそうよ。ジョージ、貴方はこの状況、どう思う?」

「俺は君が目を覚ますまでの間、少し辺りを探っていたが、見ての通り、何も見当たらなかった。俺たちは第三者によってここに連れてこられ、そして何らかの目的で閉じ込められているのだろう。」

「一体誰がそんな事を…。」

「さあな。エミリー、君ならどう考える?」


 うーん、と唸り、思考を巡らす。ここに至るまでの記憶はおぼろげだ。というより、本当に"目が覚めたらここにいた"のだ。ジョージの言う通り、私たちは第三者によってここに……?


「……ジョージ、貴方、何かやましい気持ちで私とここに閉じ込もったわけじゃあ無いでしょうね?」

「よしてくれ。確かに君は魅力的だが、俺はそこまで本能に踊らされたりはしない。理性的である事は俺の美徳の一つだ。」

「ごめんなさい。私、こういう時はいつも疑心暗鬼になっちゃって。」

「まぁ、あらゆる可能性を考慮する事は生存戦略の一つだ。」


 彼なりに慰めてくれているのだろうか、どこか励ますような声色でそう言った。


「そうだ、ジョージ。私も一応周りを調べてみるわね。」

「ああ、頼む。」



-----



 調べた結果、得られた情報はやはり何もないという事実だけだった。


「これからどうすれば良いのかしら。」


 ぽつりと呟く。


「相手の動きを待つしかないのかもしれない。俺達は何らかの交渉材料としてここに幽閉されている可能性もある。」

「それは私も考えたわ。でもそれって妙よ。」

「どこがだ?」

「一体誰がどうやって私たちにご飯を出してくれるっていうの?このままじゃ空腹で死んでしまうわ!」


 爆音を轟かせる私のお腹は、ここに来る前の、最後の食事からもかなり時間が経っている事を示している。


「私たちはきっと見世物にされてるんだわ。第三者サマは空腹で倒れる哀れな私たちを見て楽しんでいるのよ。」


 しくしくと泣きながら、膝を抱え丸くなる。


「見世物、か。」


 ジョージはそう呟き、何か閃いたような面持ちで顎を撫でる。


「俺達が二人で閉じ込められている事には何か意味があるんじゃないか?」

「……例えばどんな?」

「……。」


 少し考える素振りを見せたあと、彼は徐に立ち上がり、近付いてきた。


「ちょっと、何をするつもり?」


 緊張が高まり、途端に心臓が早鐘を打つ。

 彼は何も言わずに私の真正面に座りこむと、口を開いた。


「乗ってくれ。」

「......どういうつもり?」

「チームワークだ。二人なら、まだ調べてない天井も調べられるかもしれない。」

「届かないわよ。」

「やってみなきゃ分からないだろう。」

「重いとか言ったら埋めるからね。」

「出来るならやってくれ。地下から脱出しよう。」


 私は彼の促すまま彼の肩に乗る。


「君の言った通り、もしかすると、これは本当に見世物――何かの実験なのかもしれないと思ってな。」


 土台の彼がゆっくりと立ち上がった後、私も恐る恐る立ち上がる。天井がみるみる近付いてくる。


「あ、意外と簡単に届きそうだわ!」

「それは良かった。おかしなところがないか調べてみてくれ。」

「ええ。」



-----



 チームワークは良好。調査は思いの外すんなりと進んだ。しばらくして、私は天井の異変を察知した。


「……ここの天井、すこし妙だわ。叩くと何だか少しだけ軽い音がするもの。」

「そうだな、思い切り叩いてみてくれ。」


 頷いて、力の限り叩いてやると、一瞬、天井が動いた気がした。


「とても硬いわ。手が痛くなっちゃう。」

「なるほど、そういうことか。エミリー、こっちの立ち位置から、今度は押すように力を入れてみてくれないか?」

「分かったわ。」


 ジョージの指示に従い天井を押すと、その周囲が裏返るように回転することに気付いた。


「あったわ!ジョージ!」

「でかした、エミリー!」

「でもこの後どうすれば良いのかしら。私、とてもじゃないけどここには入れそうにないわ。」

「いいんだ、エミリー。そのまま裏返った天井を見てみろ。」

「天井の裏……?」


 見ると、そこには何だか怪しげな黄色の半球が用意されていた。


「ジョージ、これって触ってもいいものかしら。」

「ああ、大丈夫だ。押してみろ。」

「言ったわね?押すわよ?」

「平気だ――俺は以前にも一度これと似たものを見たことがある。」



 ポチッという感触のあと、一房のバナナと人間の歓声が湧いた。



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