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「お母様、どうしてお父様を選ばれたのですか?」
「顔が良かったから」
「……」
「ほら、私って地味な顔でしょ?その反動かしら。面食いなの」
十二歳になりアレイスター公爵家の特別な役目を教えられた。
わたしもいずれは夫を持ち子どもを生んで血を繋げなくてはならない。
母はどんな基準で夫を選んだのか、どうして父だったのか長年の疑問をぶつけてみた。
その答え……顔…。
母はアレイスター家に多い漆黒の髪と濃い茶の眼、顔立ちは整っている方だけど華やかさは今ひとつーーという容姿。ちなみにわたしは母にそっくりだが、眼だけは父と同じ紺碧の瞳だ。
社交界デビューした母はアレイスター公爵家の令嬢という事で注目を集めた。しかし……
「あの会場中のガッカリ感……心が折れたわ」
皆んなの期待値が高すぎて実物を目にしたら、こんなもん?て事らしい。
「私もね、いけなかったのよ。面倒だとろくに茶会にもサロンにも行かずに引きこもっていたから。謎の深窓の令嬢って噂になってたなんて……」
なるほど。わりと幼いころから母がわたしを茶会に連れ出してた理由はこれだったのか。
うちの娘はこんな感じですよ〜、とお知らせしてたわけだ。
そんな事があってますます社交界が苦手になってた母にさらに追い打ちが…。
「アレイスター公爵令嬢はとても高位貴族の姫君には見えないな」
「そうそう。地味だよな」
「まぁひどい!」
「でも、お召しになってるドレスは流石に公爵家、素晴らしい物ですわ」
「衣装が一流でも、肝腎の中身がアレでは…」
「あら……うふふふ」
“アレイスターの地味姫” “衣装負けのアレイスター姫”
そんな風に母を笑い者にしてたどこかの子息達が白々しく求婚の手紙を送ってきたり、舞踏会でダンスを誘ってくる。
すっかり人間不信になった母は婿なんか探す気にもなれなかったそう。
社交界に出るのも嫌だったけど、まったく出ないわけにも行かない。
たまに参加する舞踏会で父を見た。
艶やかな金髪、紺碧の瞳、誰もが振り返る彫刻のような美貌を持つ伯爵家の子息。
綺麗な令嬢達の間をひらひらと飛び回り浮名を流す美青年。
そんな男性が母を口説いた。
「皆んな公爵家令嬢としてしか私を見ないなら誰でも良いと思ったのよ。それならせめて見た目が完璧な男性を、と思って。中身なんかどうでも良かった」
極端すぎる。
「それでもあの人の言葉は私を酔わせてくれたわ。それにあの人だけは地味姫と言わなかったし。5年間だけは誠実な夫だったわ。その後は貴女も知ってるとおりだけどね」
「私が生まれのですし、目的は達成したのではないのですか?」
「それが離婚を承知しないのよ」
父はアレイスター公と呼ばれているのだが、その名称を手放したくないのだろう。
「お父様の所業を訴えれば離婚できるのではないのですか?」
「そうねぇ。……でも、あの人には恩があるから」
「恩…ですか?」
「私にセレスティアという宝物をくれたから」
「……」
「だからこそ、この家を出て本当に愛する人を見つけて幸せになって欲しいと思っているのよ。その時は不妊の魔法も解除するのだけど……」
「病気ではなく、不妊の魔法もだったのですか?」
「そうよ。公爵家に籍がある間は無節操に子供を作られては困りますからね。勿論お父様は知らないから、貴女も内緒にね」
この父母を見ていては、茶会で知り合った令嬢達が夢見ているような恋愛にカケラも興味が持てないのも致し方ないと思うのだが。