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わたしと私の二つを使っているのですが、会話として使っている時は私でそれ以外の時はわたしとなってます。
家令を振り切って部屋に押し入ってきた父は産褥特有の臭気に一瞬顔をしかめた。
「……お父様、たった今子供を産んだばかりです。まだ片付けも終わっておりません。祝いのお言葉でしたら後程にいただきたく存じます」
お祝いしに来たんじゃ無いんだろうなーと思いながら言ってみる。
「フン、女か」
案の定、子供用ベッドに寝ているエレンティアを見ると馬鹿にしたように鼻で笑った。
「私の家でも赤ん坊が生まれた。お前の弟だ」
「それは、おめでとうございます」
「この公爵家の正統な後継者だ!」
「……現在、私がアレイスター公爵家当主ですが?」
「家は男が継ぐものと決まっている。今まではお前しか跡取りがいなかったから暫定で当主になったにすぎん。あの子が成人したらお前は隠居するのだな!」
「それはどうでしょう?我アレイスター公爵家は少々他の貴族家とは違います。アレイスター女公爵家と言われるほど女性当主の場合がほとんどですがね」
「それはこの公爵家が女腹だからだろう?男児の生まれる事が少ないからだ。だがこうして正統な跡取りたる私の息子が生まれたのだ。お前は安心して隠居の準備をするが良い」
「……お父様、話し合わなくてはならない事がたくさんあるようですが、今は私、とても疲れております。十日後…今後の事をお話ししましょう」
「……いいだろう」
そう言い捨てて、父はわたしとエレンティアを嫌な目で見て部屋を出て行った。
やばい。まだ産後死亡フラグは、折れてなかったようだ。
わたしは父を見送ろうと部屋を出ようとした家令を呼び止め、いくつか指示を出した。
わたしの護衛の強化、神殿から解毒ポーション購入、侍女長の配置替え、毒味係の補強、乳母及び全使用人の再身元調査等々。
あの野望の塊の父はわたしに対する愛情は一欠片も無い。暗殺とか平気で仕掛けて来るだろう。
弟が成人する迄大人しく待ってるとは思えない。むしろ今が好機、幼い子の後見人として公爵家を好きにできると思っているんだろう。
何度も釘を刺したんだけど懲りてないな。
今日生まれたエレンティアの叔父に当たる男児は、将来エレンティアに害を与える存在になる。このまま放置できない。
父への対処は王家の力を借りてキツくお仕置きしよう。
いっそ潰すか。
そうしよう。
そう決意して今度こそ眠りにつくのだった。