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色々思い出しすぎて頭の中がぐちゃぐちゃだけど、まずは出産!
そして産後の死亡回避!
落ち着け、わたし!ヒッヒッフー……。
まず周りを見てみよう。物品の準備は出来ているか?
お湯よーし、タオルよーし、糸とハサミ……へその緒を処理するために必要なんだけど…無いな。
「そこの貴女、糸とハサミを持ってきて!あ、ハサミは煮沸消毒してからね」
「煮沸消毒?でございますか?」
侍女もお手伝いさんも首を傾げている。
わたしは消毒の方法を説明する。
「あと、酒精の強い蒸留酒を一本、それから飲み水と軽食も持って来て」
「お食事されるのですか?」
何か二人に驚いた顔された。なんで?
「お産の時は飲んだり食べたりしてはいけないと聞いてましたが?」
は?お産って人によっては数日かかる人もいるのに、その間絶食しろって?
ただでさえ体力使うのに……死ぬわ。
「良いから、消化に良いものをお願いするわ」
言われたものを取りに部屋を出る侍女を見ながら後はどうするか考える。
出産時の死亡原因として一番考えられるのは……異常出血かな…。もしそうなら止血と輸血。
輸血はこの世界では無いけど、ファンタジー世界だから手段はある。
増血のポーションと治癒のポーション、ついでに体力回復のポーションも用意してもらおう。
わたしは食事を持ってきた侍女に三種類のポーションを神殿から購入してくるよう命じた。侍女は驚きで目を剥いていた。
無理もない。ポーション一本で彼女の給金(公爵家の侍女なら新人でもかなりの高級取り)一年分だ。安価なポーションも勿論あるが最上級の物を要求したのだ。
これで何とかなるかな。
ここは魔法の存在する世界なので、わたしは治癒魔法を使えるが、もし気を失ったらそのままお陀仏だ。その時にポーションを使ってもらおうと思う。
あれこれ準備をしてるうちにお産は順調に進む。
破水もして、陣痛間隔が短くなってきた。
そろそろいきんでも良いかな?
子宮口の開き具合とか診てくれっていってもわから無いだろうし……。
ここは昔取った杵柄、助産師の勘で行ってみよう。
「そろそろ産まれると思うから、赤ちゃんの湯浴みを用意して。二人ともそこの蒸留酒で手を洗って。お手伝いの貴女、私の側へ。赤ちゃんの頭が見えたら教えてちょうだい。行くわよ。……う〜……!…〜んん!」
「あっ!見えました!赤ちゃんの頭が見えました」
よし!順調!このままタイミングを合わせて力めば行けるはず。
何度か力んでやっと生まれた、わたしの子供!
感無量‼︎
布で包まれ弱々しい産声をあげた赤ん坊を見てホッとしてしまったが、まだ終わってない。
後産として出てきた胎盤を確認した。うん、欠けは無いからOKね。わたしの意識もはっきりしてるし、今のところ異常出血も無さそう。
赤ちゃんが出てくる時できた裂傷を治癒魔法で治してとりあえず一安心。
産湯できれいになった赤ちゃんを枕元に連れて来てもらう。
黒髪の女児、とても可愛い。将来はきっとすごい美人さんになるに違いない!……親の欲目か、いや、この子はエレンティア・アレイスター。イラストでは少し気が強そうではあったが、間違いなく美少女だった!
「奥様、おめでとうございます」
侍女とお手伝いさんがお祝いの言葉をくれた後に言いにくそうに
「……あの、お嬢様のお尻に、……あのぅ痣がございまして」
痣?
「見せてくれるかしら?」
侍女は枕元のエレンティアの産着を捲り臀部を出した。
「なぁんだ、蒙古斑ね。これなら成長と共に消えるから大丈夫よ」
ん?蒙古斑?
ここって西洋風ファンタジー世界よね。蒙古斑って地球では日本人とか中国人とかのアジア系民族に出るのよね、“蒙古斑”て言うくらいだし。こちらの世界では人種関係ないのかしら?いや、この二人も見たことなかったようだし……???
頭が?でいっぱいになったけど、出産直後の頭脳では難しい事が考えられない。まずはゆっくり休もう。
と、眠ろうとしたら、部屋の外で何やら言い合いする声が聞こえた。
「大旦那様、おやめ下さい!」
「やかましい‼︎」
家令の制止を振り切ってドアが乱暴に開けられた。
入ってきた父のドヤ顔を目にしてこれからの展開が予想されて、わたしは大きなため息を吐く。