山越え
山の麓まで馬車で送ってもらい、早速登り始める。
シーナさんが危険だと判断した時には、テッドは亜空間でお留守番になる。だからテッドも張り切っているけど、案内するムーン達が先に片付けてしまうので、獲物が残らない。
「ユーリ、俺にも戦わせてくれるように言ってくれよ」
「仮に残しても、レイシアさん達がやっつけちゃうと思うけど?」
「だよなー」
「山登りはきついから、今は体力を温存しておいたら?」
ばてたら、それこそ亜空間送りになってしまう。
レイシアさんとシーナさんは余裕でお喋りしながら登っている。レイシアさんの喋り方も、シーナさんと二人だけで喋っているからか、敬語が抜けている。すごく仲良さそうだ。
ムーンの大剣が斬れすぎて、暇だなーと思っていたら、獣道からアーマードボアが出てきた。
すぐ後ろを歩っていたエーファさんがすかさず矢で撃ち抜く。うわあ。目を正確に撃ち抜いてるよ。さすがだな。
まだピクピクしてるから生きているだろう。すかさずテッドが雷魔法を打つ。
「よっしゃ!レベルアップ!」
落ちてすぐの頃は、私もレベルアップすると嬉しかったな。レベルアップで体力が回復したりはしないけど。
「アーマードボアはダンジョンにも出るよ」
「へえ。何階層?」
「九階層ですね」
「米、米は?」
「19階層だよ。大丈夫。テッドの分も取ってくるから」
「おい!何で俺が行けないの前提で話すんだよ!」
「いや…無理だと思う」
特にシャケのエリア。私だってエメルに乗せてもらって抜けられたのだ。
飛翔を使えば行けない事もないけど、かなり魔力を使う。
私はルーン様の加護に加えてシャンドラ様の加護もある。加えてレベルだ。
そう。魔晶石もある。もしかしたら使っているうちに魔力量も減るのかもしれないけど、それら全ての条件が整っていて何とかなるレベルだ。
野営の場所である頂上の平らな所に出た。早速結界石を用意して、竈形に整えた石を出す。
「そのまましまっているの?考えもしなかったなぁ。ちょっと収納してみていい?」
ユーリが頷くと、エーファはそのままの形で収納してみた。
「おお!これは便利だ!テントはそのまま収納したら容量が嵩みそうだけど、これ位なら問題ないかな?」
「兄さん、夕ご飯の用意ができなくなるだろ?」
「いけない。面白くてつい」
「いいわね。私にも時空魔法の適性があったら良かったのに」
「シーナ母さんは、充分凄いよ」
「でもぉ。テッドに加えてユーリちゃんまで凄いんだもの。魔法使いとしてかなりいい方だと思っていたのに、自信なくしちゃうわ」
「そんなことを言ったら、身体強化しか出来ない私はどうなるの?冒険者時代は、シーナの魔法に随分助けられたわ」
「そうよね。無い物ねだりしても仕方ないわ!」
今日はとん汁をスープに、捌いた肉を焼いていく。レイシアさんは、解体も上手だな。
(前も思ったけど、味噌とか醤油って落ち人の特典で買えるってやつ?)
(そうだよ。自分のお金が使えるの。最初の従魔、モコも魔物の卵を買ったんだよ。お陰で生きていられるんだけど)
(転生者はそういうの全くないからな。正直羨ましい)
(でも、買えるっていうことは、この世界のどこかにはあるってことだよ。私はもう少し大きくなったら旅に出て探すつもり)
(いいな。…その旅、俺もついて行ったらだめか?)
(まあ、テッドなら家族みんなが魔物だって分かっているからいいけど…学校もあるんだよね?)
(リロルに初等学校がある。二年間、10歳前の子供が通う所。ユーリも行くか?初等学校なら、国の政策で庶民でも安く入れるぞ)
(まあ、学校には興味あるけど、テッドの使命はどうなるの?)
(アリエール様は、できる範囲でいいって言ってた。今の所は王都の男と、ユーリだけだし)
(私はまあ、今の所大丈夫だし)
(王都にいるライアン兄さんに、情報は集めてもらっている。今の所、レベルが低くて使い物にならないらしいから、レベル上げをさせられているらしいな)
(時空魔法は?)
(どうだろうな?まだ二年位らしいから、収納庫位は覚えているかもしれないけど)
(加護がどんなものかは分からないけど、そんなもんかな?戦争とかは?)
(現王の政権が続く限りは大丈夫じゃないかな?南のローナンが多少キナ臭いけど、地形的に攻め滅ぼされる事はないし、頑丈な砦もあるから)
(…ふーん)
(お前なあ、全く分かってないだろ?)
(図書館とか行って、これから勉強するつもりだったんだもん)
(まあ、俺もそんなに詳しい訳じゃないから。父さんや兄さんから聞いた話だから。ローナンは、青龍がいるこの国が羨ましいんだよ)
(別に、他の国にいても恩恵を受けられないわけじゃないんでしょ?)
(当然だろ。神様みたいなものなんだから)
そうだね。アオさんは凄い人だもん。
夕ご飯を食べていたら、結界石の向こうにミノタウロスの姿が見えた。
ユーリ達が嬉々として狩りに行くと、エーファさんもついてきた。
テッドは、シーナさんが押さえている。
エーファさんの射た矢が刺さると、矢羽の方から血が流れている。
中抜けの矢だね。再生能力のあるミノタウロスと戦う時は、再生を遅らせる効果があるのだろう。まあ、私達にはあまり関係ないけど。
ミノタウロスも、ムーンのミスリルの大剣の前には形無しだ。
「凄いわ。ムーンさん、あのミノタウロスが、あっさり狩られてしまうなんて」
「ユーリのお陰です」
「ええと…私、鍛冶魔法も出来るので」
「…本当に凄いけど、それは私達以外に言わない方がいいわね。レベルも高くてその年齢で亜空間も使えて…うちのテッドもだけど、色々出来すぎると、落ち人と言われかねないわ」
(済まない。ユーリ)
(大丈夫だよ、ムーン。シーナさんは女神様のお陰だと思っているから)
夕食の残りも片付けて、亜空間に入った。
「お風呂、先にどうぞ?」
「ありがとう…まあ!大きなお風呂ね!」
モチを、亜空間の中で自由にさせてあげて、従魔達は、部屋を分けた寝室の方で元に戻る。
「みんな、頑張ったね」
(人化も随分慣れたからな)
(私はギリギリね。でも見つかるようなへまはしないわ)
(エメルは従魔を出した事にすれば誤魔化せるかもしれないけど、魔物になる所を見られたら言い訳できないし)
(気をつけるわ)
人化のスキルは魔力を使わないみたいだけど、解けそうになると、辛いらしい。
我慢させちゃって申し訳ないけど、頑張ってもらうしかない。




