帰郷
ホログラムを、早速起動してみた。こちらに害意を向ける者、魔物は赤く表示する。
こちらに気がついていない者は白だ。これで薬草採取も楽になる。
マップと連動させると、欲しい素材を緑で表示してくれる。
うーん。移動しながらだと、目の前がチラチラと鬱陶しいな。
視界の端に、こう…小さく表示させて。よし。成功だ。
ビデオはゆっくりと、時間のある時に見よう。ふふふ。私の秘蔵のコレクションがまた見られるって事だよね。勿論その時には拡大画面にすればいい。
魔力も思ったほど使ってないな。
「ユーリしゃん、何かありましたか?すごく嬉しそうでしゅね」
(えへへ…補助魔法をたくさん作ってもらったんだ。ルーン様に)
「ルーン様から天啓があったのでしゅか?」
(というか、会った。私の妄想…じゃなくて想像した物を、全部じゃないけど補助魔法にしてもらったんだ)
(凄いわね。ユーリ。神様になんて望んでも会えるものじゃないのに)
(私は目立つらしいから)
アリエール様の加護持ちは、あと知ってる中ではテッドだけだもんね。
どこかに見えない印でも付いているのだろうか?それはちょっと恥ずかしいな。
(神様って、本当に良く見てるよね)
(普通じゃない?神様はそういうものよ?でも残念な事に犯罪者は減らないけど)
盗賊とかか。やっぱり印が付くのかな?じゃないと水晶が反応しないよね。
「ユーリしゃん?何か変な事考えてましゅか?」
(えっと、加護を持っているとか、犯罪者には見えない印が付くのかなって)
「…ユーリしゃんの発想は、時々理解できないでしゅ」
そうかなー?
次の日。大分寒くなってきた外に、マントをしっかりと羽織る。雪狼の皮でできたそのマントは、ムーンが狩ってきた物だ。
同じ種族でも、仲間ではないようだ。防水効果もあり、温度調節、サイズ自動調節、クリーンの付与を付けてある。
(帰ろう。山の向こうへ)
門を出たら走り、人の目が無くなったらみんな人化を解く。
ムーン以外は影の中へ。私はムーンの背中に乗って山の麓まで走る。
麓まで来たらみんなを影から出す。
(やっと出られたわ。外に)
「モコ、人化したまま戦うの?」
「うん。戻ると杖が使えなくなるからね。お陰で随分魔法も上達したよ」
(なら俺達も、人化して戦う。ユーリにも、武器の扱いが上手くなった事を見て欲しいからな)
エメル以外は服を着て、装備を整える。
(私はユーリを守る為に側にいたけど、人化の練習はしていたわ。でも戦うとなると無理ね。山を越えて、魔物が弱くなったら戦う練習をしてみるわ)
(そうだね。無理しない方がいい)
それにしてもみんな強くなったな。魔物の時のスキルがなくても、全然大丈夫みたいだ。
ムーンの大剣が、魔物を切り裂く。チャチャのガントレットが、魔物を打ち据える。
モコの魔法が二人を援護する。
ひと夏見ていないだけで、すごく進歩した。
(みんな凄い!)
力任せな所はあるけど、ていうかムーンの大剣曲がってる!あの厚みのある魔鋼が曲がるなんて…どんだけ馬鹿力なの?
(ムーン…剣が曲がってるよ?)
(ふむ…気がつかなかったな)
ムーンから剣を受け取り、モデリングとシェービングを行う。その後に強化の付与を付けるけど、付与の容量が少なくて、弱い強化しか付けられなかった。
ミスリルではムーンには軽過ぎるけど、強度を考えるとミスリルしかない。
重量付加の付与も付けるようだな。…普通は逆なんだけどね。大剣には重量軽減の付与を付けるべきなのに。
(形はこれと同じがいい?)
(ふむ…もっと重量があれば反動でもっと深く斬れると思う)
えええ…
私には、ムーンの剣を持つのでやっとだ。魔鋼は重い。
(軽くても、斬れるようになればいいよね?)
(ユーリ、私のガントレットも調整お願い)
うん。金属疲労おこしてるね。
(ボクのナイフは大丈夫だよね)
モコのナイフは最初に買ったミスリル製のナイフに付与も施した物だから、全く問題ない。
杖だけだと、接近戦になると不味いから、持たせてある。
エメルはやっぱり大盾と片手剣かな?
ミスリルが全く足りないから、また銀を…はあ。どっかに未発見のミスリルの鉱脈ないかな…ないよね。
ダンジョンをもっと深く探索していけば見つかるかも?
(ユーリ、ボクのロープの罠、大分使っちゃったんだ。ダンジョンで補充したい)
なら16階層だね。役に立って良かった。
やっぱりこの山はお肉的に美味しいね。血抜きは、流水操作でさっさと終わらせる。
そろそろ頂上付近だ。そこで丁度夜になる。
今日はオーク肉の生姜焼きだ。町に生姜が売っていたから、結構な量を買った。
こういう調味料を手に入れる為にも、色々な町に行きたいな。
というのも、ショッピングでは買えたからあるはずの醤油と味噌がコーベットとリロル市には売っていなかった。
チャチャが料理を手伝ってくれる。エメルも、少しずつ腕を上げている。
助かる。人化を覚えるまでは殆んど一人でやるしかなかったから。
残念だったのは、大画面にしても従魔達にはビデオを見せてあげられなかった事。
まあ…私の見てた物だから嫌かもしれないし、いいかな。
いつもの習慣で、銀をミスリルに変えてからベッドに入る。夏の間は私は殆んど戦っていないから、パワーレベリング状態なのが申し訳ない。モコのもふもふに顔を埋めていたら、そのまま眠ってしまったらしい。
今日からまた頑張ろう。レベルだけで戦いの腕が鈍るのは嫌だからね。
亜空間から出ると、オーガが襲ってきた。今、チャチャが着けている全身スーツはオーガのものだ。サイズ自動調節大が付けられるようになったので、他の従魔も着られるけど、私は無理。元が2m越えだから、さすがに私サイズまで縮まないのは仕方ない。モコでさえちょっとダブつくのだ。
なるべく綺麗に倒したいので、目を狙って剣を突き立て、雷魔法を使う。
いくら再生能力が高いオーガでも、脳を焼ききられては再生できない。
これでもう一枚作れる。
おお!高級牛肉が襲ってきた!私達にはまだまだ油断ならない敵。エメルは私の防御に徹してくれている。
ウォーターバッファローも美味しいけど、ミノタウロスは別格だ。
人化を解いて戦うみんな。うん。やっぱり元の姿の方が強いね。
山を下って、ロックリザードの群れを抜けてやっと戻ってきた。
畑は雑草だらけだけど、薬草も生えてる。まあ、もう冬だからここに拘る事はない。
エメルも海に行かないし、ダンジョンの側に亜空間を開いておくのに何ら問題ない。
種類は少ないけど、野菜も手に入れられるし、移動の手間も省ける。
収納庫の中には色々準備してあるけど、長い冬を乗り切る為だし、更に下層にも行けたらいいなと思っている。
よし!頑張ろう!




