落ち人
食事を終えて、寝室に案内された。テッドが話があるからとついてきた、
なんとなく言いたい事は分かる。女神様に落ち人の事を頼まれているテッドとしては、私のフォローをしたいのだろう。
扉の外に人の気配がなくなってから、テッドが話し始めた。
「今の所ユーリに関しては誰も注目してないと思う。それとは別件で、最近落ち人が王都の貴族の手に落ちたらしい」
「それは神託で知ったの?」
「いや。一番上の兄さんは、王都で騎士をしているから、そこからの情報」
「奴隷にされてるの?」
「多分。何かそいつ、男なんだけど、自分は聖剣を持つ勇者だとか言ってたらしい」
「その人、馬鹿なの?妖精に注意とか受けなかったのかな」
(私達の話を聞いてくれない人もいましゅ。強い武器をショッピングで買ったとしてもスタートはレベル1なので当然弱いでしゅ)
「全く、こっちはまだ子供で好きに行動できないし、ディスペルだってまだ使えないのに」
(フレイ、妖精の友達から情報はもらえないの?)
(う…今の私は、界の妖精にこちらからは話せないのでしゅ)
(そっか)
「ユーリ?」
「ああ、ごめん。テッドはその人を助けたいんだよね?」
「父さん達に王都に行きたいって話しても、ここからかなり遠いし、俺一人じゃ行かせてもらえなくて」
「使命の話はした方がいいと思うけどな」
「だよな…兄さん達には落ち人の情報はもらえるようにお願いしてあるんだけどさ」
「いつ手紙をもらったの?」
「ユーリが町から出た後だよ。早く話したかったんだけど」
タイミングが悪かったな。
「テッド、念話のスキル取れない?補助魔法の方でもいい」
「ユーリは念話持ってるのか?」
「テイマーには必須のスキルだと思うけど?」
「そうなのか?まあ、それがあれば人目を気にしなくても話せるか」
「冒険者として王都まで行っても私には何もできないけど、様子を探る事はできるし、同じ落ち人としても放っておけない」
奴隷には奴隷紋というものが刻まれ、契約のスキルによって主人の命には逆らえない。
それは呪いと同じなので、呪いを解呪するディスペルは助ける為には必須だ。
王国の法では犯罪者奴隷、借金奴隷以外は認めていない。だからそれ以外は違法奴隷となるけど、奴隷紋を刻まれたら当然訴える事さえできない。
ただ、それ以外にも違法奴隷はいるらしい。盗賊に襲われて、奴隷館に売られた者だ。
「界の妖精の祝福…じゃなくて加護は、そんなに価値がある物なのかな?」
「まあ、時空魔法自体が適性があったとしても習得が難しい物だし。空間の把握って、俺達みたいにある程度専門的な知識がないと難しいらしいんだよな」
そうなのか。魔法だけが発達しててもだめな所はあるんだね。
「あとは落ち人だけが使えるショッピングなんかも狙われる理由じゃないのか?」
「確かにあれはずるいね。まあ、私はそれがなかったら生きていられなかったけど。テッドからアリエール様に抗議してみたら?」
「意見として言ったけど、聞いてくれたかは分からないな」
「え?教会で祈れば加護持ちなら言葉は届くんじゃないの?」
「だとしても、返事が貰えるとは限らないだろ?一応俺も天啓のスキルは得ているけど、具体的に指示された事ないし」
それはテッドがまだ子供だからじゃ?と思ったけど、反抗期なおガキ様になられても困るので、黙っておいた。私は大人だからね!ふふん。
ドアがノックされる。
「寝てたらごめんなさい?ユーリちゃん」
シーナさんの声だ。
「うわ。やべっ!」
テッドはベッドに潜り込んだ。それって全然隠れられてないから。
「テッドがお邪魔してない?…こらテッド!」
掛布団がガバッと持ち上げられる。
「何やってんのよあんたって子は!夜這いなんて10年早いわよ!」
「そ、そんなんじゃなくて!話があっただけだって!」
「シーナさん、本当です。テッドの使命で、落ち人を…うわ!」
「余計な事いうな!バカ!」
「バカはそっちでしょ!」
「お前の方がバカだろ!」
「いい加減にしなさい!二人共!何時だと思ってるの!」
テッドが急に身動きできなくなった。
「…あら?ユーリちゃんには効いてないみたい。けど良かったわ。力加減を誤って二人共麻痺させちゃったと思ったけど」
怖!まあ、おバカ様には丁度いいね。私には効かないし。
「テッドが何を隠しているか、ユーリちゃんは知っているのね?」
うわ。ちょっとそれは…
「はい。でもテッド君から直接聞いた方がいいと思いますけど」
「しらばっくれて何も言ってくれないのよ。ユーリちゃんにも係わる事かしら?」
鋭い。でもシーナさんなら…どうしよう?
「テッドは確かに私の息子だけど、天才の一言で片付けられないような所があるのよ。教えてくれたら嬉しいんだけど」
「テッド君の麻痺治していいですか?」
「そろそろ解けると思うけど…ほら」
「母さん!酷いだろ!」
「テッド、別に悪い事してる訳じゃないんだから。この話の流れだと誤魔化せないよ?」
「他人事みたいに。お前だって色々バレるぞ!」
問題はそこだけど、私は二度とコーベットに近付かなければいいだけだし。
「…テッド、お母さんが信用できないかしら?」
「そんなんじゃ…一晩、考えさせてくれ」
そう言って、ユーリを見る。
「私は大丈夫だと思うな」
「分かったわ。じゃあまた明日ね」
二人が出て行くと、ユーリは亜空間に入った。
「ごめん。寝てた?」
(ん…ユーリ?どうしたの)
みんなに今までの事を話した。
(なるほどね。でも私もあの人達なら大丈夫だと思うわ)
(けど、どこで他人にばれるかも分からない)
(でもチャチャ、ユーリはやっぱり人だから、他の人と係わらないで生きていくのは難しいと思うし、特にまだ子供だし)
(何かあればユーリを強制的に連れて逃げる。それだけの話だ)
(うん。それでいいよ。今王都にいる落ち人の事だけど…)
(女神様には係わるなって言われているんだし、無視した方がいいと思う)
(そうなんだけど…人の話聞かないで勇者を名乗っちゃうようなおバカだけど、私と同じ立場だし、できるなら助けてあげたい)
(その結果、ユーリが目をつけられたらどうする?)
(そこは…うーん)
平穏には暮らしたいけど、知ってて見捨てるのもな…
(とりあえず今日は寝よう?もう夜も遅いし)
色々考えちゃって眠れない気がするけど、ベッドでもふもふ達に囲まれたらすぐにまぶたが重くなる。
色々と考えなきゃいけないのに…眠い。




