図書館
誤字報告ありがとうございます。
長時間の人化はまだ難しいので、みんな亜空間の中で、食事もたっぷりと用意した。
「今日はよろしくお願いします」
「やっぱりしっかりしてるのね。ユーリちゃんは。テッドも少しは見習いなさい」
「俺だって、他人に敬語位使えるよ」
「あらそう?」
家紋付きの馬車で行くみたいだけど、御者の人以外に護衛の人はいないみたいだ。貴族なのにこんなものなの?
「どうしたの?ユーリちゃん」
「ええと、護衛の人とか付かないのかなって」
「ふふふ。領内を移動するのに護衛なんて付けないわよ。ギルドで冒険者が仕事にあぶれているのならともかく。他所から新入りの盗賊が来ない限り、ウチの馬車を襲うなんて輩はいないから大丈夫よ」
「私も戦えるので、心配はありませんよ」
御者の人がそう言った。
「母さんに任せておけばこの辺の魔物位余裕だからな」
うん。シーナさんの魔法は見てみたい。
馬車はクッションが付いているとはいえ、お尻が痛くなる。
「これでも他の馬車よりは揺れないぜ?俺が改良したから」
「そうなのよね。テッドは凄いのよ。職人と相談して、色々部品を付けたら、揺れがかなり軽減されたの」
「だって酷いんだぜ。箱の底に金属の軸を通して車輪を付けただけの物なんて乗ってられない。荷車と一緒だ。まあ、スプリングで簡易なサスペンションを前後と下に入れて、フレームを入れただけの物だけどな」
「えー。何それ?」
「ユーリちゃんも分からないわよね?」
そういう機械系はわかんないよ。
「…ま、いいけど」
(身元がしっかりしてるからこそできる事でしゅね)
まあ、そうなんだろうけど、その割には不満そうだ。テッド的にはもっと改良したかったとか?一応自重はしたんだろうな。テッドもまだ子供だし。
「そんな凄い物を思いつくなら、職人としてもやっていけそうなのに、冒険者がいいの?」
「俺は三男だし、父さんはエルフだし、旅がしたいんだ。俺は」
そっか…女神様に落ち人の事頼まれているんだもんね。
「ユーリ、大きくなったら一緒にパーティー組まないか?」
「あらー!テッド、そういう事だったのね!」
興奮するシーナさんを見、テッドと顔を見合わせて揃って首を傾げる。
「あらあら?違ったかしら?」
「何がだ?母さん」
「ユーリちゃんは可愛いから、今のうちに予約したのかしらと思って」
「…なっ!そんな訳あるかよ!」
「モコお姉ちゃんも可愛いわよね?」
「ぶっ…」
いけない。妄想が暴走する!あれでも一応雄だし、それはつまり…
「何か変な事考えてないか?」
「な、何でもないよ!」
いかんいかん。私はすぐに顔に出るんだった。
「うわぁ…凄い!」
リロル市は、コーベットとは比べ物にならない位、大きな街だ。家の殆どが、石とレンガで出来ているし、二階建ての家も目立つ。
「ユーリちゃん、身を乗りだしたら危ないわよ。ここは貿易が盛んな所だから、図書館もいいけど、お買い物もしましょうね」
やった!買い物楽しみ!
「東京に比べたら、全然田舎じゃん」
そりゃそうだろうけど、ここは上の世界とは違うんだから。
てか私、東京なんて数えるほどしか行った事ないし。
「石畳じゃなくて、レンガなんですね?」
「その方が、公共事業としてたくさんの人を雇えるらしいわ」
そうか。レンガの方が軽いし割れやすい。割れたレンガを焼く人、交換する人が必要になってくるもんね。アルフレッドさんは、領主としても優秀だな。
豪奢な造りの建物の前で馬車が停まる。こう言っては何だけど、コーベットにある領主の館よりも立派に見える。
入るの気後れしちゃうな。私、入っていいの?
シーナさんに連れられて入ると、すんなりと入れた。
「ユーリ、いいから堂々としとけよ」
「庶民には入りずらいよ」
「ユーリの事は父さんも気に入っているんだろう。だから大丈夫だ」
気に入られる要素、あったかな?
「魔法の才能だろう。ユーリも高レベルの魔法使えるなら、俺がそんなに目立たなくなるし」
まあ、マジックブレイクは聖魔法だし、光魔法を極めないと覚えられないからな。
なるほどね。抜け目ない。でも同じ理由で私もテッドを利用してる。テッドの側でなら、それなりに魔法が使えたとしても目立たないだろう。
図書館の中は、独特の皮の匂いが充満している。良くある本棚ではなく、一冊一冊が、表紙が見えるように横置きされている。
一般化書物も読みたいけど、まずは魔法の本がいいな。
補助魔法に関する本は、やたら少ない。まあ、レアスキルらしいから置いておいても仕方ないんだろうな。
補助魔法 転写か。過去に使えた人は、神書の原本など、重要書物を転写して増やしたようだ。ただ、使えるようになった人は少なくて、魔力量も多くなかったから冊数は多くないようだ。
遠話は、スキルの念話の魔法バージョンか。双方で使えないと、送信一方になってしまう。
その辺は念話と一緒だね。
ロングハンドは、自分が持てる重さが魔法の限界みたい。触手の方がやっぱり優秀…本には載ってないけど。
念動の方が軽い物しか動かせないみたい。あれ?でも私は自分を浮かせたけど…まあ、今の私は充分軽いか。てか飛翔と被る。
まあ、大人になったら念動では飛べないと思うし。
メモリーは忘れたくない場面を記憶する魔法。時間経過で忘れちゃう事もなくなるみたいだけど、そこまでして覚えていたい場面もないし、過去を記憶しておくのには魔法が必要だから、上の世界での事を魔法で忘れないようにするのは無理みたいだな。
擬態は覚えたら、役に立つかも。昆虫とか忍者っぽい魔法だな。
やっぱり補助魔法は妄想力…じゃなくて想像力が不可欠みたい。
まあ、下らない魔法もあるけど。
「ユーリ、これ見てみろよ」
テッドに呼ばれて行くと、聖魔法が載っていた。やはりディスペルは高位魔法のようだ。それと、聖魔法唯一の攻撃魔法ホーリーは、かなりの修練が必要で、それこそルーン様の加護持ちでないと難しいらしい。
ルーン様の加護持ちはそれなりにいるって話だけど、それでも伝説級の魔法なんだ。
シーナさんが使えると思われるカーズも、暗黒魔法では上位に位置している。ありとあらゆる状態異常と、ステータスそのものを下げる恐ろしい魔法だ。
うん。やっぱり逆らっちゃだめな人だね。
スキルの本も見つけた。念の為に調べてみたけど、超感覚はやっぱりなかった。
「二人共、そろそろ閉館よ」
え?もう?
因みに今日はリロル市にある領主の館に泊まるらしい。普段は公民館的な役割を果たしていて、代表者が管理しているとか。
私は普通に宿でいいんだけどな。




