スライム採取と、モチ
町外れにある領主の館は、守りこそ堅牢だが、イメージよりも簡素な感じ?
とはいえ、日本の住宅事情からすると充分に大きいが。
大きさだけなら隣に建つ兵士の詰所の方が大きいけど、たくさんの兵士がそこに詰めていると考えると、中の事情は推して図るべし。かな。
「すみません、テッド君に会いに来たんですけど」
「テッド様はいらっしゃると思うが…」
「来たな、ユーリ。勝負だ!」
木剣を投げてくるテッドに、ユーリはため息をついた。
「いいけど、話ししに来たんだけどな」
仕方のないお子様だ。
「それと、出来れば短剣二つがいいな」
「は?短剣て。ガキのおもちゃかよ」
「奥の庭でやって下さいね」
確かにここじゃ、綺麗に整えた色々が、不味い。シーナさんを怒らせてしまう。
この辺は訓練所になっているのか。テッドが持ってきた短剣を、逆手に構える。
無防備に突っ込んでくるテッドの剣を左手の剣で流し、右手の剣で軽く当ててやる。
まあ、手加減の練習位にはなるだろう。それなりに剣は振ってるみたいだけど、経験の差は仕方ない。
そのうちテッドももう一本片手剣を持ってきて、私を真似て剣を振るうけど、そんな付け焼き刃で敵う訳ないじゃん?
「くっそー!俺だって訓練もしてるし、魔物も狩っているのに何でだよ!」
「んー。レベル?ていうか、こっちは生きる為に必死だったんだから」
「ド田舎育ちだもんな。てか、何だっけ?」
「転生者ってテッドの他にいないの?」
「さあ?色々と問題あるみたいだから、かなり間隔は開くし、同じ国には転生させないんじゃないか?」
「同じ落ち人としては他の人も助けたいんだけど、アリエール様は私にあんまり関わらせたくないみたいなんだよね」
「へえ。天啓のスキル?」
「うん。何か教会で修行しなくても取れちゃった」
「チートかよ。妖精の加護ってやつ?」
「ううん。祝福だけど、それも無くなったっぽい。私の担当妖精は半人前だから仕方ないの。私自身も小さくなりすぎたし。そういえばテッドは何歳だったの?」
「45。因みにSEだった。遅くまで仕事しててボーッとしながら帰る途中、車にひかれて人生終了」
「そのわりには反抗期とか。普通の子供みたい」
「それがさ、使命は覚えてるのに元の俺の記憶は年々薄れていくんだ。ユーリも思い当たる節あるだろ?」
「それね。余程印象に残ってるものじゃないと、確かに忘れてる」
忘れたい記憶ほど残っていたりもするけど。
「父さんは領主だから、困っていたら前世の知識を生かして内政チートとかやりたかったけど、種族差別以外には困っている事ないし」
「差別?」
「父さんはエルフだから、中央の貴族からは嫌われてるんだ。人族至上主義ってやつ。まあ、王様とは仲いいみたいだけど」
「テッド、ユーリちゃん、おやつよ」
「私も?」
「友達なんだから、遠慮しないで」
「友達…もしかしてテッドって友達いない?」
「そうなのよ。自分に付いてこられる奴じゃないとだめだとか格好つけて。その割にはユーリちゃんにはあっさり負けてたわね!」
「はあ?見てたのかよ。母さん」
「うふふー。なあに?魔法でも負けて剣でも負けちゃったの?」
薮蛇。テッドの馬鹿。気配も探ってなかったの?今来たばっかりじゃん、
「家族とよく魔物狩りはしてましたから」
「三姉妹とか羨ましいわ。うちは男の子ばかりだから、華がないのよね」
因みに今は、三人とも食肉採取の依頼に出ている。町への出入りの時だけ人化すればいいから、一応は町に着いたら迎えには出るけど。
私は戦闘系の依頼は避けてるけど、どっかの誰かさんのせいで無駄になりそう。
「そうだ。今度一緒に依頼受けないか?」
「どんなの?」
「スライムの確保。定期的に父さんが依頼を出しているんだ。臭い対策で。川もそんなに遠くないし、子供の足でも充分行ける」
(モチ?何興奮しているの?…うーん。まさかまた共食いしたいとか?)
まあ。別にいいか。食べるというよりはむしろ合体?だし。何の為にそんな事するのか分からないけど。スライム研究者とかいたらちょっと話を聞いてみたいかも。
「分かった。いいよ。モチも行きたいみたいだし」
「モチ?」
「スライムの従魔の名前」
「ぶっ…まんまかよ」
放っといてよ。ネーミングセンスがないのは分かってる。
ギルドで借りた、金属で出来た背負い籠を背負って川に向かう。エメルは町から出たら、外に出した。
「護衛付きで仕事なんてありなの?」
「仕方ないだろ。道中にも魔物は出るし、川近くにはミズトカゲも出るんだ。まあ、危なくならない限りは手を出して来ないよ」
「私の事はいないものと思って下さい」
トーマスさんは、一歩後ろを歩いてくれているけど、気にしない訳にはいかない。
護衛の人が付くと知っていたから、マジックバッグも持ってきた。
スライムは生き物だから入らないけど、一緒に薬草採取の常設依頼もこなすつもりだ。
途中、ホーンラビットがいたからお昼ご飯にでもしようと思って、首を一撃ではねたらテッドに怒られた。
「田舎育ちのお前と違って俺はあんまり魔物が狩れないんだから譲ってくれよ!」
「うーん。まあいいけど、基本的に見つけた者が狩るって事でいい?特に食べられる魔物は」
「そうだな。食肉採取の依頼もこなせるし、そこは公平にしないとな」
流水操作で一気に血抜きしたら、テッドが驚いていた。
「水魔法にはそんな使い方もあるんだな。野生の知恵か」
「一言余計。てか、これ位は基本でしょ」
「いや、思いつかなかったな。後でどんな魔法研究したか、意見交換しようぜ」
「いいよ…モチ?」
前方に、緑がかった色のスライムが現れた。モチが影から飛び出して、向かっていく。
「あのスライム、戦闘もするのか?」
「モチはスライムにしては好戦的なんだよ。ここはモチに譲って?」
「まあ。スライムなんていくらでもいるし…って、ヤバくないか?あれはアシッドスライムだぞ!上位種の」
確かに酸らしきものを飛ばしているけど、モチは巧みに避けている。
そして、薄く広がりアシッドスライムを取り込んだ!
ダメージを受けているみたいなので回復魔法だけかけてやる。
(大丈夫?モチ)
顔があればきっとモチはどや顔していただろうな。凄く嬉しそうだ。
…ん?嬉しい? モチ、ステータスオープン
モチ (?)
合体スライム
水魔法 薬液生成 分離 合体 酸攻撃 変形
跳ねる 体当たり
納得。合体する事で相手の能力を取り込むんだね。スラミーとすあまは完全にモチと合体したってことかな。微妙なパスは感じているけど、モチのパスに飲み込まれそうだ。
だったら普通のスライムを取り込んだのはどうして?…モチもお話できるといいんだけどな。
「満足した?モチ。おいで」
モチは元のように私の影の中に入った。
モチ、プチ進化?
(スライムも色々見てきたけど、モチは特別変わったスライムね)
川辺の水の流れの緩やかな所は、スライムのたまり場だ。それをザルで掬って背負い籠に入れる。
ミズトカゲは大した脅威じゃないな。可食分も殆んどないし。
噛まれると地味に痛いから、足で踏みつけて、倒す。
丁度いい時間なので、さっきのホーンラビットを解体して串焼きにする。
テッドとトーマスさんは、お弁当を持ってきていたけど、勧めたら喜んで食べた。
モチは…お腹いっぱい?合体には時間がかかるみたいだ。
残っても持って帰ればみんな食べちゃうからね。




