山と…
今日はユーリの誕生日だ。一応モコとスラミーも誕生日が近いので一緒に祝うんだけど、他の子はなかなか誕生日が分からない。まあ、気にした事もないらしいけど。
この世界に落ちてきて2年。もうずいぶんと馴染んだ気がするけど、人の町には行けてない。
一応想像通りの魔法が使えるんだけど、熟練度以上の事は出来ない。
だからこの前の例のアレの事件の時も、熟練度だけは足りていたのだと思う。
意外と切欠も大事なのだ。
苺ミルクプリンと、カニ玉スープ。鶏のなんちゃってポン酢炒めと、ブタ玉。それとかき氷の苺ソースがけ。
最後の一品はスラミー達用の物だ。
私はプリンの半分をエメルにあげて、スープとポン酢炒めの少しでお腹いっぱい。ちょっとスープを飲み過ぎた。
最初は亜空間を使えるようになったら即引っ越ししようかと思ってたけど、従魔達が自由に出入り出来ないので、中用のベッドだけを作り直している。
みんなで寝られるようにと巨大なベッドだ。
そこに毛足の長い魔物の皮をのせて、モコがアンゴラキャットだった頃の毛布を乗せる。
この気温なら、毛布一枚あれば充分だ。
誰かが出入りする度に私が開け閉めしなきゃいけないのが面倒だと思い、空間指定すればいけるかな?と考えて、入り口を固定してみた。
結果、出入り自由にはなった。他の場所で入りたい時は一々解除しないといけなくなったけど、別にいい。
テーブルとか椅子とか、色々用意しないといけないけど、家の物は土に触れている所が腐り始めているので再利用はできない。
とはいえ、今は畑も田んぼも忙しい。特に田んぼは二期作する予定だから、収穫の時期を見誤らないようにしないと。
そろそろ苗も育ってきたから早く黄色くならないかな。
稲を育てていてびっくりしたのが、この世界ではイナゴも魔物らしいということ。
結界石に弾かれたから間違いないんだけど、稲の天敵だから正直助かる。
レベルが低い人はイナゴでレベルが上がったりするのだろうか?
もう私は家の周囲の魔物だとレベルアップしない。塵も積もればかもしれないけど、ダンジョン行ったりしちゃうから、確かめようがないんだよね。
アオさんの所に遊びに行って、亜空間を覚えたから森を出るかもしれないという話をしたら、少し淋しそうに笑って、それでも応援してくれた。
田植えが終わったら山に何度か挑戦してみるつもりだ。
夏の暑い時期は正直亜空間にこもりたかったけど、それでは普通に生活ができない。
それでも食事と寝る時は亜空間を利用している。
(ここは涼しくて凄くいい場所だが、慣れてしまったら魔物としての大切な何かを失いそうだな。それでなくともユーリの食事無しにはいられなくなってしまったからな)
うん。もうみんな野生には戻れないんじゃないかな。
(魔物か…確かにボクは魔物だけど、産まれた時からユーリと一緒だったから、生活が快適になるのに抵抗はないかな)
モコは野生の時期がないから感覚は少し違うかもね。
でも、出入りは自由になっても私が亜空間にいないとみんなは入る事はできない。魔法も万能ではないって事だろうな。
それに外に出ないと食材が手に入らないんだから、それは困る。
(私は暑いのは割と平気。でもみんなの分まで狩りは無理)
(ま、チャチャの言う通りだな。俺は特に食べるから、頼るつもりもない)
スラ達はあまり気温には左右されないみたいだ。
あのアースワームに殆ど何もできなかったのが相当に悔しかったのか、モチは特に頑張っているみたい。もうゴブリン程度なら倒せるかもしれない。
スラミーとすあまはマイペースだけど、すあまは薬液精製でハイポーションまで出せるようになってしまった。
努力の結果なのか、あれから順調に増えている薬草も食べているせいなのかは知らないけど、大きな進歩だ。
スラミーは適量な水分を畑にまけるようになったし、それぞれに頑張っている。
二期目のトウモロコシが随分伸びてきた頃、やっと米の収穫も終わり、田植えも一段落した。
山脈の麓までは実際歩くと何日もかかりそうだけど、ムーンの背中に乗ればものの数時間で着く。
このまま山も越えられれば楽なんだけど、私を背中に乗せていてはムーンが戦えない。
弱い魔物なら威圧で去ってくれるけど、ここの山は手強いからムーンも守りながら戦うのは厳しいと言った。
エメルは空も飛べるけど、ムーンの走るスピードにはとても追いつけない。だからまとめて影の中だ。
畑はスラ達に任せて麓から徐々に慣らしていく予定だ。
山の麓には岩が転がっていた。一見するとただの岩に見えるけど、警戒していた私達にはすぐに分かった。
軽く魔法を当てると、岩が動いて襲いかかってきた。
(うわ、硬い!)
アーマードボアの皮さえ切り裂けるようになったモコの爪が通らない。
背面は殆ど岩だからだな。アースランスでひっくり返してやると、内側には楽に刃も通る。
ミスリルの双剣なら貫けるけど、弱点を利用しない手はない。
エメルの攻撃は岩を砕く程の威力があるし、チャチャも器用に隙を突いてひっくり返して攻撃している。
それを見てモコも自分の毛を伸ばして絡めとり、ひっくり返すか、ソニックウエーブで攻撃した。
うん。みんな問題なさそうだな。まあ、ここはまだ山の入り口だし、ここで躓いたらお話にならないんだけど。
時々休憩を挟みながら登るけど、ここの魔素は家の周りと比べたら濃い事が分かる。
魔力の回復が速い。体に取り込まれる魔素が
多いという事だろう。
何か右目まで痛くなってきたから、お昼を過ぎた所で戻り足をかける事にした。
亜空間を出た所で木の上から襲いかかってきた赤い蛇を迎え討とうと剣を構える。と、右目が熱くなって蛇は息絶えた。
何…どういうこと?
鑑定 レッドバイパーの死骸 食用可だが、毒袋に注意 牙と尾にも毒がある。
うん…まさか自分の毒で死んだ訳じゃないよね?
『スキル 死の瞳を得ました』
はあ?!ちょっと待ってよ。絶対おかしいじゃん!
「ユーリしゃん…まさかそんな事まで…」
「フレイ…いくら私でも、これは許容出来ないよ!何とかならない?」
「青龍様に相談してみましゅか?」
さすがにフレイも不安そうだ。
暗黒魔法に、命を奪うデスの魔法があるけど、私にはまだ使えない。それが目に宿ったって事なのかな…スキル化したから制御はできると思うけど、従魔を見た時にうっかり発動したらと思うと、怖い。
アオさんならきっとどうにかしてくれる…のかな?いや、手紙でシャンドラ様に相談っていうのも手かな。この目はシャンドラ様が作ったのだし、何とかできるかも?
(ユーリ、私達には良く分からないけど、とにかく家に戻りましょう?)
確かに。日が暮れる前に戻らないと。
(ユーリしゃん、青龍様の許でならシャンドラ様も降りる事ができましゅ。聖域に足を踏み入れる事になりましゅが、ユーリしゃんならきっと大丈夫でゅ)
うん?今のは専用回線かな?つまりは私だけに聞こえるように話したって事。うん…聖域とやらがどんな場所かは分からないけど、従魔のみんなはきっと心配する。
四神獣は聖域を侵す者には容赦しないらしいから。




