昆布
ムーンは森の片隅で一人主を待っていた。
無事な事は分かる。神獣は、領域さえ侵さなければ基本放置だから。
それに主は多分気に入られているのだろう。幼くとも賢いし、神の祝福も受けている。
体内にある魔石さえなければ自分もついて行けるのだが、無ければ生命を維持できない。今はただ、無事を信じて待つしかない。
主が近づいて来る!俺は魔石がダメージを受けないギリギリまで走った。
すぐにもふもふしてくる主を舐めて、また魔力の質が上がっていると嗅ぎとる。
もう、来させない方が良いのではないか?そんな権限はなくとも、不安になる。
主がいずれは人の世界に入って行くのだとしたら、目立たない訳がない。
そうなると、モコが進化の際に人の姿を取れる能力を望んで手に入れたのは正解か。落ち人に身内はいないから、兄弟姉妹がいるだけでも違うだろう。
モコに確認したが、人化中は魔物としての能力の殆どは封じられる。つまりは弱くなる。
畑仕事は出来るようになるから主を手伝う事は出来るが、弱くなるのはな…。
まあ、その前に進化できるかどうかも分からない。
(ユーリ、鎧…)
確かに主以外の魔力を感じる。
(うーん。ちょっと改造してある鎧なんだ。武器もだけど。もしかしてこれも近くにいたら辛い?)
(そういうのとは違う)
(けど、その鎧はどうしたんだ?)
(うーん。ある人に作り直してもらったの。皮にしか見えないけど、ミスリル製なんだ)
(ミスリルはかなり珍しい物だよ?)
うーん、出来るかな?
ユーリは小さい銀の粒を出して、魔力を込めていく。最初はなかなか上手くいかなかったけど、圧縮するようにしたら少しずつ変質した。
かなり魔力を使うな…夜に少しずつやろう。
(こうすると、銀はミスリルになるって教わったの)
多分アオさんはあそこの銀鉱から採れた物をミスリルにしたんだろうな。単なるミスリルよりも付与もたくさん付けられそうだし、アオさんの清廉な魔力も感じる。
「普通の人族には魔力が少なくて出来ない方法でしゅ。やるのは妖精族位でしゅね」
「へー。そうなんだ」
年齢不詳のアオさんだからあんなに持っていたのかな…
何かした覚えはないんだけど、どうしてか凄く気に入られてるんだよね。
餌付け?いやいや。
もしかしたらずっと一人なのかも。忘れられたって言ってたし。
私なら淋しくて耐えられないな。従魔達がいたから何年も暮らせたのだと思うし。
ただ、いつももらってばかりだから、行き過ぎるのも悪い気がして。
味の好みは分からないけど、あまり食べない人だから、珍しい料理が出来たらでいいかな?
一口サイズを色々と集めて…懐石料理みたいな?
懐石料理なんて作った事ないけど。ていうか私には無理。
そうだ。コンブ…じゃなくてコンブー?を採りに行かないと。
まさかの淡水。さすがに予想外。
エメルには探してもらって悪い事したな。でもワカメとか普通に嬉しい。
次の日に帰ってきたエメルも事を聞いて、もしかして青龍?と聞かれた時には焦ったけど、本人には聞いてないけど、多分そうかなと言ったら、妙に納得された。
(落ちた時に界の管理者に加護を頂いたユーリはある意味特別なのかしらね?)
(それは偶然ていうか、気がついてもらえなかったら詰んでたと思うし…さすがに魔物のいる世界で障害者はきつかったと思うし)
「申し訳ないでしゅ」
「結果オーライだからいいよ」
おかしな事は色々と起きるけど、使い方次第だと思うし。
(それとエメル、昆布は淡水で採れるらしいから、今までごめんね)
(いいわよ。お陰で水の中で使う風魔法にも慣れたし)
そう。水の中では風はあるものを利用出来ないから、私もエメルに教わってお風呂で風魔法を使う練習をした。
使う感覚が全く違うんだよね。さすがに水の中で火魔法は使ったりしない。水蒸気爆発が怖いからね。
水を温めるのは火魔法だけど、水の温度を上げるイメージだから、戦闘に使う火魔法とは違うんだよね。
(お陰でカニなんかの硬い魔物も、割と楽に倒せるようになったわ。水中の魔物には水魔法ってあまり効かないから)
まあ、当然耐性は持ってるだろうからね。
(だから今日は、湖に行って昆布を採取してくるね。みんなは自由にしてて)
(確かに私達は入れないわね。でも行く途中には魔物も出るから私はついて行くわ)
(そうだな。あそこは森の奥地だから、出る魔物も強い。水中は安全だろうが護衛は必要だ)
結局みんなで行く事になった。
確か聖水の効果があるんだよね。今は使えなくても材料を取っておいてもいいな。
普段はポーションを入れている瓶に詰めて、収納庫に入れておく。
高レベルのポーションの材料になるけど、それ用の薬草もないし、今の私じゃ技術不足で作れないと思う。
まだ本格的に暑くなってないから水は冷たいけど、呼吸補助の魔法をかけて潜った。
うん…予想してたけど、魚もいないんだね。魚は魔物扱いだから仕方ない。
見つけた。見かけは昆布そのものだ。色とりどりの水草も綺麗だな。…ん?あれは?
ほぼ中央に透明な石が転がっている。
鑑定 水晶石 装飾品や、錬金術の材料として使われる。霊水の中でしか採取出来ない高級品
レアアイテムっぽい。後で錬金術の本で調べてみよう。
適当に拾って、また昆布の採取に戻った。
「ぷはー」
呼吸補助の魔法でも空気は吸えるけど、やっぱり水から出ると深く息を吸いたくなる。
(大丈夫?ずいぶん長く潜っていたわね)
(呼吸補助の魔法を覚えたからね。昆布、たくさんあったよ!)
(良かったわね。それ、美味しいの?)
(昆布を使った料理はあるけど、大概干して出汁をとるんだよ。汁物が美味しくなる。あとはお鍋とか)
(へえ。なら期待しちゃうわね。ユーリの美味しい料理)
(任せて)
あくまで家庭料理だけど、みんな美味しいって言ってくれるから、作りがいがあるな。




