フレイ
ユーリは、兎汁に小麦粉を少しの水で溶いて、スプーンで煮立たせている汁の中に少しずつ落としてゆく。今日はすいとんだ。
パスが、途切れた…スラっちとスラぽんが、死んだ。
仕方ない。スライムは、最弱モンスターだ。
(スラりん、スラミー、ホイミン、戻っておいで)
モコはユーリの足元にいる。
ゆっくりと時間をかけてスラ達が戻って来た。
三匹。また、捕まえてくる?…いや、いいや。愛着が湧く程の時間を一緒にいた訳ではないけど、やっぱり悲しい。
スラ達からは、何の感情も伝わってこない。分裂で増えるスライムには、仲間意識が薄いのだろうか?
スラ達にはホーンラビットの皮をなめしてもらおう。
モコには狼肉を、串焼きにした。生でもいいみたいだけど、なんとなくだ。
ふと気配を感じて顔を上げると、妖精フレイがいた。
「ユーリしゃん、あの…もう怒ってましぇんか?」
「怒ってないよ。元の世界には私って、死んだ事になっているの?」
「いえ…存在自体が忘れられていましゅ。肉親とか、余程縁の深い関係の人だと何かの拍子に思い出してしまうかもしれましぇんが、公的記録にも残ってましぇんし、銀行の口座もないでしゅ」
「まあ…たった一人の肉親も亡くなったから、私を思い出す人もいないって訳ね。それにしても、私の事、どうしてここまで小さな子供にしたの?」
「ユーリしゃんは、私に会った時には既に半分死んでる状態でした。残存している細胞を構成し直して、…私じゃなければもっと体も大きく、上手く行った筈でしゅ」
「怒ってないから顔を上げて」
「ユーリしゃんは、優しいでしゅね。今すぐ戻せ!って暴力を振るわれた事もありましゅし、異世界転生でチートでハーレムだ!って話を聞かない人も多いでしゅ。仲間の話でしゅ」
「全く未練がないって言えば嘘になるけど、生まれ変わったつもりで頑張るし…色々と不器用になっているのは、体のせい?」
「歳相応になっているのだと思いましゅ。体の方がそれは顕著だと思いましゅ」
なるほど。だからすぐ転んだりしてるのか。じゃあ精神も?
「ユーリしゃん、時空魔法は使ってみました?」
「あー、うん。良く分からなかった。空間把握と座標指定だっけ」
「多分覚えやすくなってる筈なので、頑張ってくだしゃい。テントが立てられなくても、旅ができるようになると思うので。でも、落ち人だとは知られないようにした方がいいでしゅよ」
「そうなの?」
「落ち人には担当妖精の加護が付きましゅ。元お金持ちだった人は、たくさんのスキルや装備等で、狙われたりもしましゅ。そのミスリルのナイフも偽装というスキルがあるので、隠した方がいいでしゅよ」
「了解。ありがとう」
「それと…目の色も」
「え?」
鏡が無いから分からないけど、髪の色はシャンドラ様みたいな銀髪だ。
「…目を作るのは、完全に失敗したのでしゅ」
ああ。落ち込んじゃってる。
「まあ…シャンドラ様のおかげで、今は五体満足みたいだし」
「うにゅ」
「ね、ここに来てて大丈夫なの?」
「今日はお休みの日なのでしゅ。一度ちゃんと謝りたかったでしゅ」
「ん…まあ気にしないで。あ、お勧めの従魔ってどんなの?」
「好みもあるのでしゅ。あまりにも実力がかけ離れていると、買っても契約できない事もあるのでしゅ」
そうなのか…何か強そうなのはやたら高かったし、それで契約できなかったら悲しいよね。それに飼えない数を飼ってもダメだし。
「あのランダムの卵は、強いのはいないの?」
「そうでもないでしゅよ?主の…ユーリしゃんの魔力が浸透するので、契約できない事はまずありましぇん」
「モコは大当たりだね。もふもふだし」
「アンゴラキャットはあんまり強くないでしゅ。でも進化したりもするので、あとはユーリしゃん次第でしゅね」
「これからも、暇だったら遊びに来てほしいな。モコ達がいるけど、喋れないから」
「スライムは無理だと思いましゅけど、多分念話で話しかけていれば、モコは喋れると思いましゅよ」
「そっか…期待しよう」
「今は一人前になるのに必死に頑張っているので、あんまり暇はないのでしゅ。でも、一人前になれたら絶対にユーリしゃんに報告したいから、死なないでくだしゃいね」
「うん。頑張るよ」
フレイは、小さく手を振って消えた。
偽装と、鏡を買ってみた。僅かに面影はあるけど別人で驚いた。左目はフレイと同じ緑の瞳。右はシャンドラ様の影響か、銀色の瞳だ。
…そのうち右目が疼くとか言い出すんじゃなかろうか?
これも要練習だな。あ、そういえばどうしてこんな辺境の地に落としたのか聞きそびれた。
いきなり町中は不味いと思うけど、さすがに遠すぎる。
異世界定番の15歳スタートなら、テントも使えるから、旅が出来そうだ。
時空魔法っていうと、時間停止の収納庫に、異空間の別荘。ワープ機能とかも使えるようになるのかな。
うん。面白そう。
まあその前に、穴掘り頑張ろう。先の事より今住む所を何とかしないと。